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48 なんちゃって図像学 若紫の巻(6)⑦ 山上の宴 前編



・ 山の夜明け

夜が明けていきます。
山の空は白く霞がかかって、山鳥はさえずり、錦を敷き詰めたように名も知らぬ花々が咲く中に鹿が佇み歩いていきます。
初めて見る景色が心に沁みて、源氏は病を忘れます。

・ 聖来たる

岩窟の聖が老体を押して何とか僧都の坊まで下りて来て、作法通りの護身法から、嗄れがれに尊くも陀羅尼を施します。

・ 迎えの到着

迎えの家臣たちが僧都の坊に到着して快癒の祝いを述べ、帝からの御見舞いも伝えました。

・ 饗応

僧都は谷の方まで人を遣って珍しい肴を取らせて饗応します。
「山籠の誓いが今年いっぱいございまして、都までお見送りできません」「お目にかからなければ、こんな心残りはなくて済んだのでございますが」など言いながら、源氏に酒をすすめます。

源氏は「山水の景に大変に心惹かれたのですが、帝の御心配が畏れ多いので帰京して、花のうちにまた参りましょう」「皆にも風の吹き散らす前に見に来るように申しましょう」と答えます。
📖 宮人に 行きて語らむ 山桜 風よりさきに 来ても 見るべく

源氏の様子も声も眩いばかりなので、僧都は、「貴方様にお会いできたのは3000年に一度咲くという優曇華の開花に巡り合ったようで、深山の桜など比べようもございません」
📖 優曇華の花 まち得たるここちして 深山桜に 目こそ移らね

源氏は、「そんな稀なこととお比べになるとは」と少し笑います。

は源氏から杯を受けて、「奥山の松の扉を珍しく開けましたら、見たこともない花のような美しいお顔を拝見いたしました」と感涙しながら、御守りに、煩悩を払う独鈷を献上します。

それを見て僧都は聖徳太子が百済より得た秘宝を献上します。
碧玉の飾りを付けた金剛子の数珠を同じ舶来のに入れて薄物の袋に包んだのを五葉松の枝に付け、瑠璃の壺に薬を入れたようなのをの枝に付けて贈り物とします。📌①

≪立派な源氏物語図 二人の高僧の贈り物≫

🌷🌷🌷『二人の高僧の贈り物』の場の 目印 の 札 を並べてみた ▼

源氏は、予め命じて運ばせた様々の褒美を、山の賤しい猟師樵に至るまで遣わしました。
聖をはじめ読経した僧たちへの布施をして、誦経もして帰ります。


・ 帰京前に尼君と遣り取りしていたこと

その前に、僧都は源氏の求婚らしき申し出を尼君にそのまま伝え、源氏が既に夜中に聞いたのと同じ返事を、改めて源氏に伝えていました。
「今はお返事の申しようもありません」「真実のお気持ちで、もう4,5年経ってからのことならともかくも」

帰る前に、草庵の童子に尼君への文を届けさせました。
「昨夕、仄かに美しい花を見たので、今朝は立ち去りがたい思いです」

尼君からは「本気でおっしゃっておられるのですか?本気で孫娘をお連れになるお気持ちがおありなのですか?」と貴女らしい品の良さながら、無造作に書いた返事が戻りました。

📖 夕まぐれ ほのかに 花の色を見て 今朝は 霞の 立ちぞわづらふ 📌②
📖 まことにや 花のあたりは 立ち憂きと 霞むる空の 気色をも見む 📌③


・ 付記

📌① 高僧たちの贈り物

背景に瀧と桜が見えるのが僧都の坊だという目印のようです。
こじんまりした山荘というのは、山の中に、東京で言えば例えば六義園があって、その中にもあり桜もあり、庵風の邸もある、位の感じなのでしょうか。
思ってたのと違う…。

僧が二人、おそらく装束の立派な方が僧都で、普段の襤褸衣から着替えたとはいえ質素なのが岩窟の聖。
煩悩を払う聖の独鈷に対し、僧都の贈り物の現世的ゴージャス
マウントに見えてしまう心の汚さが恥ずかしいです。
絢爛豪華の方の贈り物を見る源氏が「マジか?」と言っているアイロニカルな漫画のように見えるのも、左の僧がしょんぼり顔または「あーあ」というがっかり顔で、右の僧がえっへん顔に見えるのも、何もかも気のせいとは思いますが、何だか笑ってしまいました。


📌② 夕まぐれ

夕まぐれ ほのかに 花の色を見て 今朝は 霞の 立ちぞわづらふ
この歌の『霞』は、『立つ』の縁語としての『霞』だそうです。


📌③ まことにや

まことにや 花のあたりは 立ち憂きと 霞むる空の 気色をも見む 
こちらの『霞むる』は『掠むる』とかかって、孫娘をかすめさらっていくとおっしゃるのが本気かどうか見ていますよ、ということだそうです。

                        眞斗通つぐ美

・ 追記

嵯峨野の天龍寺の龍門瀑のことをふと思い出しました。
夢窓国師設計とかなっちゃうとあまりにも違いそうですが、天龍寺そのものは嵯峨天皇の檀林皇后が開かれた時からあったそうです。
瀧を庭に見る草庵という美意識は繋がっているのかもと妄想して、庭に滝があって小柴垣から覗けて、結構な一行が草上で宴もできて、尼君や女房達も住める家、少し想像可能な構造に思えてきました。

📌 まとめ

・ 山上の宴前編
https://x.com/Tokonatsu54/status/1711226872103837937?s=20

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