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20 なるべく挿絵付き 夕顔の巻 名乗らず顔も隠しているが …溺れる


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・ 首尾を遂げる

おっとりと子供っぽいのに閨事にはよく慣れた夕顔に没入していくのは、浮かれ女を玩具にするつもりで足を取られていく感覚でもあったでしょうか。
源氏は17歳です。
源氏は女の素性も聞かず、自分も名乗らぬどころか顔も見せないようにして通います。

みすぼらしい住まいを侮ってのことでもあったでしょう。
孤児とはいえ公卿の令嬢とは知る由もありません。

惟光が趣味と実益の色仕掛けでこの家の女房に手引きさせたようですが詳細は語られていません。
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・ 惟光の奮闘努力

惟光は忠実に偵察を続けています。
「どういう人かは全くわかりませんのでございます」「相当に人目を忍んでいるようでございます」
「通りに面したあの長屋から、若い女房たちが、車の音がする度に覗き見ているようでございます」
「女主人が来ていることもあるようで、とても愛らしい人のように垣間見えたこともございます」
「この前、身分ありげな車が通った時には、女童が『右近さん、見て見て!中将様がお通りですよ』と走って行きますと、

聞きつけた女房が『静かになさい』と制しながら出てきたのでございますが、慌てて、住居と長屋の間に渡しているだけの板橋に衣の裾を引っ掛けてよろけて落ちて

『葛城の神さまじゃあるまいし、何て危ない橋なの!』と文句を言っているので、覗いているのも興醒めでした」

・ 頭中将の想い人か?!

「しかしでございますよ!」「『頭中将様は直衣でいらして、御随身のあの人やこの人もいましたよ』などと、随身や小舎人童の名前を誰彼と数え上げて言っておりましたのでね、私もまさかと思いましたでございますよ」

「その車は、私も見たかったな」「本当に彼の車だったのかね」
源氏は、いよいよ五条の女が本当に頭中将の惜しんでいた常夏の女なのではないかと興味が募っていきます。

・ 五条の家の内情

「実は、隣の女房を口説きましたのでございます」「様子を探るには家に入り込むのが一番でございますからね」
「小さな家ですから、女主人らしい声が聞こえることもございます。私がおりますので女房のふりをしているんでございますがね」
「そこで女童などがうっかり召使の申しようなどしてしまうと、私の耳を意識して女房たちが素早くごまかして、同輩の女房しかいないふりを致すのでございます」
「でも、そんなことをしても、私にかかればお見通しでございます」

源氏はいよいよ気持ちが急いて、「今度尼君の見舞いの時に私も覗かせてもらうよ」と言います。

「仮住まいなのかどうなのか」
「それにしてもこの程度の家にいるのだから、これが雨夜に皆が言っていた下の品の女なのだろう」
「こういうところに面白い女がいるという落差に私もときめいてみたいものだ」
と源氏は思います。

・ 夜這う

惟光が段取りを付けました。

思いを遂げてからは、服装も粗末にして、車にも乗らず、女の素性を尋ねもせず、自分も名乗らずに、並々ならぬ熱意で通い始めました。
惟光は、車もなしで内密に歩いて行こうとする源氏を自分の馬に乗せて、自分は徒歩で供をする羽目になりました。
行き掛けに通うことになったあの家の女房には見られたくないものだと思います。

夕顔の花の時の随身と知られていない侍童と3人だけ連れて通います。
手掛かりを与えてはいけないと、乳母宅に寄ることもしなくなりました。

女の家では不審に思って、源氏自身や文遣いの跡をつけさせますが、うまくまいてしまいます。

・ 源氏の耽溺

この道ばかりは真面目な人も踏み外すこともあるものですが、源氏に限っては今までは人の口の端に上るようなことはしないできました。
でも今度ばかりは、溺れるということを知ったようなのです。
朝の別れは引き裂かれるようで、昼間会えない間にはぼんやりしてしまうのですが、こんなに狂おしく心を奪われるような相手でもないのにと訝しみます。
可愛くて心に掛かって、軽率な行動と反省はしながら五条への通いは頻繁になるばかりです。

・ 夕顔という人

女は驚くほど柔らかにおっとりとしていて、人柄に深みなどはない様子の人です。
ただ幼く無垢な人のように見える一方で、褥では官能にすぐれて従順に淫奔でもあります。
源氏は出自が優れても見えないこの人に、どうしてこんなに心を惹かれるのだろうと不思議でなりません。

・ 三輪山の

着古した狩衣で身をやつし、顔も見せないように注意して、皆が寝静まってから出入りします。
女は、昔の三輪山の伝説のようだと気味悪がります。

闇の中での男の手触りは高貴な絹を纏っているでもなく、花を所望した貴人でもなさそうです。
この頃女房のところに来ている男が手引きしてのこの仕儀だろうかと疑います。
惟光は知らぬ顔でせっせと通い続けます。
女の家では奇妙な訪いに戸惑いながらのもの思いをしています。

📌 顔をもほの見せたまはず

顔を隠しての共寝、睦言とは不思議なことです。
覆面をしての交情ではあまりにも異様と思えます。
空蝉と軒端荻の碁を覗いた時に、軒端荻の顔ははっきり見える灯りの中で空蝉は向き合っている相手にも顔を見せないとありました。
『顔などは、差し向かひたらむ人などにも、 わざと見ゆまじうもてなしたり』
袖で覆うとか横を向くとかすれば、覆面などなくても顔を見せないことが可能なのかもしれません。
全てが暗がりの中で起きていることなのでしょうから。

                        眞斗通つぐ美


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