63なるべく挿絵付き 末摘花の巻① くつろげる女を渇望している源氏
少し時を遡ります。
17歳の年も暮れようとする頃です。
熱愛のさ中に急死した市井の女 夕顔を忘れられないまま日は過ぎていました。
正妻の葵上も高貴な愛人六条御息所も、気位高くて打ち解けてくれるようなところがありません。
取り澄まして風流を張り合うようにされていると、一緒にいても気疲れするようで、安らぐことができません。
あんなに親しみ易く打ち解けてくれる女はいなかったなと、夕顔が恋しくて仕方ありません。
何とかして、大袈裟な身分も評判もない、可憐で気の張らない人を見つけたいものだと、源氏は性懲りもなく(こりずまに)思っています。
よさそうな女の噂は聞き洩らさないように耳をそばだてていて、多少とも興味を惹くところのある女がいれば短い手紙をやるのですが、色好い返事をよこさない人は、まあいません。
そんなことにいい加減倦んでいる源氏でもあります。
男を寄せ付けないような意固地な人に、落とし甲斐でもあるかと思って期待してみるのですが、
ただ生来の情愛が薄くて気真面目のようにしているだけで、実は心の機微がわからないので生き生きした興味を示すこともない、というような女も多いのです。
そんな風ですから貞淑を貫き通すでもなく、何かの拍子で簡単に平凡な男に縁付いてしまったりするので、粉を掛けたまま尻すぼみにそのままになっている女も沢山います。
小癪にすり抜けていった慎ましやかなあの空蝉を折々に思い出します。
その継子に当たる軒端荻にも、それなりの機会がある時には寝た子を起こすようなこともあるようです。
灯火に照らされたあのしどけない姿をもう一度見てみたいものだと思っています。
源氏という人は、一度関係した女のことをすっかり忘れてしまうということのできない性分のようです。
眞斗通つぐ美
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