今日投稿すれば295日連続!びっくり!とのこと

『ご自由にお書きください』とのこと。いつもどうもありがとうです。
『読んだ本の感想をnoteに書いてみませんか?』でないので恐縮だが、読書感想文を投稿する。ナンシー・クレス『ベガーズ・イン・スペイン』金子司他訳、早川書房のハヤカワ文庫SF<SF1704>だ。白く書かれたタイトルの上に「ヒューゴー賞/ネビュラ賞/スタージョン記念賞/アシモフ誌読者賞受賞」と黄色で書かれている。表紙イラストは超高層ビルと煙突と飛行船と空中に浮かんでいる風な路面電車っぽい乗り物と自動車の他にモノレールみたいな軌道もあるかな。題名にスペインとあるから、スペインの都市なのかな、と連想した。
 この本を選んだのは現代のSFに触れたかったから。たくさん受賞しているので、これを読めば最近の流行が分かる気がしたのだ。
 表紙裏に本書の概要が記されているので、引用する。
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21世紀初頭、遺伝子改変技術により睡眠を必要としない子供たちが生まれた。高い知性、美しい容姿だけでなく驚くべき特質を持つ無眠人は、やがて一般人のねたみを買い……「新人類」テーマの傑作と高く評価され、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、アシモフ誌読者賞、SFクロニクル読者賞を受賞した表題作をはじめ、ネビュラ賞、スタージョン記念賞を受賞し、<プロバビリティ>3部作のもととなった「密告者」など全7篇を収録。
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 なんか凄そう! と期待させる宣伝だ。読者に選んで貰える宣伝の読者賞があれば受賞すると思う。
 目次。
『ベガーズ・イン・スペイン』金子司訳
『眠る犬』山岸真訳
『戦争と芸術』金子司訳
『密告者』田中一江訳
『想い出に祈りを』宮内もと子訳
『ケイシーの帝国』山田順子訳
『ダンシング・オン・エア』田中一江訳
 解説 山岸真
 それでは内容の感想を。
『ベガーズ・イン・スペイン』は「スペインの物乞い」という意味のようだ。日本語訳だと題名に相応しくないという観点から片仮名英語のタイトルになったのだろうか。個人的にはダサいと感じる。乞食とか物貰いを使わずに日本語化できなかったのだろうか? これは訳ではない……いや、仏典は中国語を訳さず読んでいるだけと聞いたことがあるから、それはそれで訳の正解なのだろう。
 ストーリーは宣伝に書いてある通り。『ドラえもん』の野比のび太が試験の前日に考えそうなことだと思う。「寝ないで勉強したら百点が取れる!」みたいな。ドラえもんは「暗記パン」のような、もっと便利な道具を出してくれるが、この世界では遺伝子の改変で対応するから、一夜漬けは無理だ。その代わり寝ないで勉強するし、改造されているので頭が良いから、出世するわけである。しかし一般人つまり有眠人の嫉妬がウザい。それはやがて「新人類」である無眠人への差別と迫害に発展していく……という展開だが、最後は何かちょっとイイ感じで終わる。
 高度成長期のモーレツ社員やバブル期の「二十四時間戦えますか」とか、ショートスリーパーの「眠らなくても平気」自慢のパロディとしても読めるかもしれない。そうではないだろうが。
 眠らないと体力が回復しないし、就眠中に分泌される成長ホルモンが出ないとしたら正常な発育や創傷治癒は大丈夫なのだろうか? といった疑問の答えが無眠人と有眠人の対立を決定的にした! みたいな流れが「必然的に、そうなるよね」だった。そんな中にあって、読者は救いのあるラストに救われ、これが読者賞につながったのかな、と感じた。違うかもしれない。
『眠る犬』の主人公が殺そうとする相手が違うだろ、と疑問に思った。まずは親父を撃てや、と考えたのだ。人のことだから知ったこっちゃないが。犬の生態を利用した侵入方法は面白いアイデアだと感心した。時間を要するのが難点だし、危険性も高いが、それしか手段がないなら一考の余地がある。
 それにしても、ここに登場するオメガ動物とは、BLのオメガと関係があるのだろうか? ないような気がするけれど、似たような空気感がある。
『戦争と芸術』は「そう来たか」という感じ。人類とは異なる知的生命体との戦争を描いたミリタリーSFとして、見たことのないパターンだった。解説の<親子の問題が絡むのは、いかにもクレスらしい>の一文は全7篇を読了した今、完全に同意。
『密告者』は人類とは精神構造が違う異種族が主人公なので、その行動様式が分からず、読むと混乱するのが刺激的だ。それが面白い。中身だけでなく外見も多少は違う様子の地球人と異星人だが、しかし両者には血のつながりがあるらしいので、その辺りが本作品と同じ設定で書かれた長編で描かれてくるのだろうか?
 異文化に接した時の眩暈に似た感覚を味わえるのが、この作品の魅力だと思う。その眩暈を楽しめるかどうかは、人によるかもしれない。
『想い出に祈りを』は「そういう捉え方もあるか」という感じだった。人間にメモリの増設が出来たらいいのに。この作者は、そういう方向性で物語を考えそうな気がしたけど、本作品は別のアプローチをしている印象。
 重度のトラウマの治療として、ありえるか。ちょっと怖い治療法だが。
『ケイシーの帝国』を読んで身につまされる人間は少なからずいると思う。『未知との遭遇』を連想した読者もいるはずだ。銀河帝国の響きに魅了される者もいると信じる。SFの五パーセントくらいは銀河帝国で出来ている感じがするので。時々、そういう話が読みたくなる。いつもではないけれど。
『ダンシング・オン・エア』は傑作。殺人事件の詳細が記されていないのは難点だが、もしかすると犯人についての説明が書いてあったに私が見落としたのかもしれないから、そうだったら許してよ、許してちょうだいよ。
 犬が良い。『眠る犬』の犬には可愛げがなかったけれど、本作品の犬は、とても可愛い。
 そしてバレエ。これも最高に良い。解説に書かれている通り、SFとバレエの組み合わせは珍しいが、これほど相性が良いとは驚いた。これもダンサーに憧れていたという作者の手腕のおかげだろう。
 遺伝子改変と親子関係というのが作者の二大テーマっぽい感じを本短編集で抱いたが、この二つは同じ根から生えている気がする。言うまでもないが親子は似たような遺伝子を持つわけで、それを改変するというのは、親子の一種の断絶を意味すると思う。本書に登場する主役クラスの親子は勿論そうだし、作品内で重要な要素となる能力強化治療を受けていないけれど、脇役の《ニューヨーク・ナウ》編集長で主人公の上司マイケル・チャウの子供らの話も関係が途切れてる感じが何とも切なくて、それが良いのだ。その逆なのが、犬とバレリーナの関係で、これがまた沁みるのである(泣き)。最初は犬を嫌っていたのが、最後は……ああ、泣ける。実に良い。
 この作品の題名『ダンシング・オン・エア』は舞踏を指す共に、絞首刑の意味もあると解説に書いてある。これ以外のタイトルはありえないだろう。

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