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[創作]さあ、やれ
「あんたのせいで、俺はめちゃくちゃになったんだ‼︎あんたのせいで俺の村はぐちゃぐちゃだ‼︎俺は誓ったんだ、あんたを殺すまで死なねえと。俺はあんたを殺して死ぬ!!」
「なあ、青年。すまなかった。俺はお前を貶めるつもりは一つもなかったが、俺の知らないところでお前を殺したんだろう。一つ教えよう。殺すならここを狙え。このど真ん中を狙え。ここをぶち抜けば、人は死ぬ。」
青年は歯をギリギリ言わせ、額には大粒の汗を浮かべている。照準が、合わない。殺そうと思えば思うほど、血が脈動し標準が逸れてしまう。
「どうした青年。お前の覚悟はそんなものなのか?殺すなら本気で殺せ。殺すなら息を深く吸え。息を深く吸い、足から地に根を張れ。そうしてお前の呼吸と精神とが合致する瞬間を見定め、不安と積極とが交じり合うその一点で俺を射て。さあ、やれ!!」
青年はますます統制が取れなくなる。分かっている、分かってはいるが、どうしても震えが止まらない。どうやっても呼吸がおさまらない。手がガタガタと震え、足がガクガクとすくむ。
瞬間、青年は引き金を引いた。
鈍い破裂音が、空を突き刺した。
弾は外れた。
殺せと命じて殺されなかった男は、一つ間を置いて、口を開いた。
「青年、その怖さが死を意識するということだ。人はこれが関わるとどんな人間でも弱小になる。だが、お前は今ここでそれを一つ経験した。その感覚を忘れないことだ。これからお前が人生の試練というものに打ち勝とうとするとき、その感覚を思い出せ。死から逃げようとすればするほど、死は追いかけてくる。緊張は止めようとするほど、激しく浮き上がる。お前はそれを決心でもって受け止め、捉え、逃さず、殺すのだ。そうすればお前が勝つ。」
青年は呆然、すでにすべての意気を削がれていた。
それをただ、この死の覚悟を持った男の眼だけが、鋭く、そしてほのかにやわらかな光でもって、捉えていた。
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