見出し画像

[創作]大丈夫

老年期の男性はその自身の暮らしを述懐し、心情を述べる。

「ここ3年間、78歳から80歳の3年間が人生で一番変化に富む時期でした。一つの、いや一つどころでないパラダイムシフトもあったし、深まる経験がありました。

75歳の時もかなり鋭い情緒の変化がありましたが、ここ78歳79歳80歳の変化はあまりにも早かった。

私が幸福だと思うのは目があることです。青年の頃にこのままでは一億総失明社会がやってくるのでは、とかおかしなことを考えたものですが、今も健在である。もちろん視力は低下していますけれども、新緑が鮮やかに今もこの目に見えることがありがたいです。

やはり学術的なものというのは、年をとってもできるものでした。

妻ももうだいぶ年をとりましたけれど、今も生きているというだけで幸福ですね。ああ明日の家の修理を任せている青年は何と言うだろう。明日の庭の木はどのように葉の色を変えるだろう。

こうやって素晴らしい世の中に生きているということが、私は限りなく嬉しいのです。明日も空はある。きっと。喜ばしいこの春に、感謝を綴ります。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?