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君との約束 3467文字#シロクマ文芸部

ただ歩く。
一歩、また一歩と。重い足を体を、ただ一つの思いで歩を進める。
君との約束のモノを持って、君の元へと帰る。
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「……ねえ、ナヤハ。君は僕がこの国の王子だと言ったら信じるかい?」
「えっ?…………うーん。どうだろうな。小さい頃からカエンは友達で幼馴染だったからなー。今更王子だって言われても、実感ないかも」
「…………そうか。」

そんな会話を数日後。
カエンが体調を崩した。カエンはカエンが言っていた通り、この国の王子だった。
俺達の居る国は、周りが大国に囲まれている為、いつも争いの危険を感じながら日々を過ごしている。この事からこの国の王となった者はどうにかして跡継ぎを守ろうと考えた。そして考え出した方法が、王が崩御し王子が王を引き継ぐまでは、王子の名前と顔を伏せる事。この伝統が今と今までの王宮を支え、王宮を成り立たせていたのだ。

カエンから俺のことを聞いていた執事がある日、俺を王宮に居るカエンの元へと案内してくれた。俺は王宮の大きさに驚きと少しの怖さを覚えたが、久しぶりにカエンに会えることの方が嬉しかった。

コンコン。
「カエン様。失礼致します」
執事がカエンの返事を待たずに、静かにカエンの部屋の扉を開けた。
「ナヤハ殿。どうぞお入り下さい」
執事に誘導されるがまま俺はカエンの部屋に入り、カエンの寝ているベットへと近づいていった。
「カエン、大丈夫か?」
カエンの色白の顔は高熱のせいで赤くなっていて、汗をかいている。俺の声に気がついたのか、カエンは静かに目を開けた。
「………、ナヤハ。駄目だよ。今此処に来たら……、」
「平気だよ。伝染る病気じゃないってさ。心配するな」
カエンは辛そうにしている。
此処に来るまでにカエンの執事からカエンの病状を聞いた。
カエンの病気は王族特有のものらしく、治す特効薬がないらしい。けれど、カエンの病状を治す唯一の方法は、この国の一番高い山に生えているサファイアのように輝く花を積み、それを潰して粉状にし、飲むというもの。
けれど、花が生えている山の気候は変わりやすく、道も険しい。人がなかなか行ける所ではないのだ。

「カエン、俺、いってくるよ」
「……ど、何処に?」
「カエンの病気が治る花を摘みに行ってくる」
その言葉を聞いたカエンは青く輝く目を大きく見開き驚いていた。

「だ、……駄目だ。行っては、あんな場所に行っては駄目だ。僕は……、君を、ナヤハを失いたくないっ」
「ふっ、大丈夫。カエンを置いて、一人でなんか逝かないさ。
必ず、帰ってくるからさ…。待っててよ」
「…………っ、」
カエンの青い瞳には涙がジワジワとたまっている。それを零さないように必死に我慢しているようだった。
俺はカエンの手を掴み2回トントンと優しく叩くと、そっと布団の中に戻した。そして俺は、カエンに挨拶することなく踵を返した。
「執事さん。俺、王様に会えないかな?さっきのことお願いしに行きたいんですけど…」
そう俺がいうと、カエンの執事は何も言わず、サラサラと王様に会うための手続きを済ましていき、あっという間に王様に会うことが出来た。

「君が、カエンとよく遊んでくれていたという子だね。今までずっとカエンと遊んでくれて、どうもありがとう。」
王様は思っていたより若く見え、優しい人に感じた。

「……俺を、カエンの病気を治すための花を摘みに行かせてもらえませんか?」
王様は俺の言葉を聞いたあとも動揺を見せることなく、少しの沈黙を置いた。

「……君の気持ちは嬉しいけれど、私は賛成できない。あんな危険な場所にカエンの大切な友達を向かわせるわけには行かない。行かせるなら、ちゃんと山岳に詳しく逞しい者に頼むよ。」
「…でも、それじゃあ、条件を満たす人を探すのに時間がかかりませんか?
………それとも、もう目星は付いているのですか?」
「いいや、まだ目星はついていない。けれど、君を向かわせるよりはマシだ。」
「お言葉ですが、探してる間に、カエンの具合が今よりもっと悪くなったら……!俺だったら今すぐにでも向かうことが出来ますっ!体力だって、筋力だって、大工仕事で鍛えていますっ!木を切るために、少し険しい山にだって登りました!
俺に、俺に行かせて下さいっ!」

我ながら、なんて幼いプレゼンだろう。もっと説得力を持たせなければならないのに、頭につく言葉はこの程度だ。
「君がどんなに言っても、私は聞くわけにはいかない。」
王様も強い。一切揺らがない。
その時っ、

ガタンッ

「………っ!」
音のした方を見ると、赤い顔をしたカエンガ倒れていた。
「………、カエンッ!!」
俺や家来達が、一斉にカエンのもとへと走っていく。俺は倒れたカエンを起こしながら、カエンを部屋へ運ぼうとすると、それをカエンに拒まれた。

「お、王様………っ、父上、お願いがあります。どうか、ナヤハ………、この者が花を摘みに行くというのをお許し下さい。」
「な、何を言っている。ナヤハは、お前の大切な友達だろう。その者を失うかもしれないんだぞ。カエン、お前はそれで良いのか」
流石の王様も息子の同意には驚きを隠せない様だった。

「わ、私だって、嫌です。大切な友をもしかしたら失うかもしれないなんて耐えられません。……けれど、ナヤハは必ず帰ってきます。そう、今、私と約束をしました」
そう言うと、カエンは俺をまっすぐ見つめて言った。
「必ず、戻って来るんだろう?ナヤハ。約束だもんな」
俺もまっすぐ見つめ答えた。

「うん。必ず、帰ってくる」

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そうして、直に旅立ったものの、思っていたより山は険しく、過酷だった。
王宮より渡された食料は2日前に尽きた。けれど、俺の腕の中には、サファイアのように輝く花がある。服も髪も体もボロボロ。
それでも俺は、生きて帰ってきてる。
カエンとの約束を、守れるんだ。
約束からもう少しで一ヶ月が経とうとしている。

俺はボロボロになり、意識も朦朧としながら、なんとか王宮にたどり着き、王宮の医師に花を手渡した。
手渡して直ぐに俺はぶっ倒れ、しばらく昏睡状態になったものの何とか意識を取り戻し、今は王宮のベットの上で、体力が回復するのを待っている。

コンコンッ
「はい。とうぞ。」
カチャンと俺の部屋を開けたのは、花のおかげで元気になったカエンだった。

「調子はどう?ナヤハ」
「見ての通りだよ。明日から少しずつ動いて体力をもっと戻さないと」
カタンとベットの近くにあった椅子に腰掛けながら、カエンは持ってきていた着替えを置いた。

「良いのか?王子がこんな庶民の雑用なんかして。お手伝いの人達が慌ててるだろ?」
「いいんだ。僕がやりたいから、やっている。それに、父上だって承知してる」

こうしてみると、やっぱりカエンは王子だということが分かる。綺麗な服にピアス、気品、オーラが違う。

「ナヤハ、本当にありがとう」
「…別に、大切な友の為に、一肌も、ふた肌もぬいだだけだよ。
まあ、そのおかげで、大工の仕事休んでばっかだったから、お給金減るけどな。
は、笑えねー」

「その事なんだけど………ねえ、ナヤハ」
カエンの声のトーンが変わった。
「うん?何?褒美がその分沢山貰える?」
「……………、それは勿論、たくさんだと思うけど、それともう一つあって」
「うん?だから何?」

「もし、もし、ナヤハさえよければ、俺専属の護衛にならない?」

「……………は?」

「いや、もし、ナヤハさえ良ければの話だし、それに、護衛部隊に入るなら訓練とか特訓とか大変だと思う。、でも、お給金は高いと思うぞ。」
俺は、話がイマイチ飲み込めないが、いわゆる、俺はいつもカエンの近くに居て護衛する役職に就けるということだ。

「カエンは良いのか?それで。俺が護衛につくなんて…、」
「い、良いに決まってる!!やってくれるの?」
「いや、まあ、これ以上ない良い話だし、カエンと毎日会えるし?いいかなーと、」
「本当かっ!」
「うん。本当」
そういった俺の言葉を聞くと、キラキラと目を輝かせとても嬉しそうにしているカエンが居た。

「そ、それじゃあ、父上にそう伝えててこなくちゃっ!」
「……嬉しそうだな。」
カエンは、とても綺麗で、でもかわいい笑顔でニコニコしていた。
その顔からも気持ちが一杯伝わってくる。
俺だって嬉しい。ただ一人の大切な友達を一番近くで守れるのだから。

それに、これから先何度するか分からないが、カエンとした約束は必ず守るよ。
これは、俺だけの俺との、約束だ。


とっても長文になってしまいました。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

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