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月読命の月めくり 1232文字#シロクマ文芸部

月めくりは、月読命(つくよみのみこと)のする事の一つだ。
月めくりとは、文字通り、月をめくるということ。月めくりが施されると、月の満ち欠けに変化が生じ、半月だった月が、次の日には満月になる。人間達はそれはそれは不思議がり、中には恐れ慄く者もいるが、天上の地と、外界、人間達の住む地とが結ばれ、神々が外界に降臨する一年で唯一の時期でもあるのだ。
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「月読命様。今年も無事、神々は外界へと降臨なされました」

「そうですか。今年も無事に出来て良かったです。お前も疲れたでしょう。もう休みなさい。」

月読命にお使えするは、万月(まんつき)という少年。見目麗しいお付きの者。

「月読命様は、まだお休みになられないのですか?」
「私は、もう少し月を愛でることにします。私は夜を司る神。今が私の時間ですから…」
「ならば、私もお供させて下さい。月読命様と共に、私も月を愛でたいのです」
「ふふっ、良いですよ。さあ、こちらへ」
そう言うと、月読命は万月に優しく手招きをした。万月は静かに月読命の隣に腰を降ろした。

「神様方は外界に降りて、何をなさってくるのでしょうね?」
「さあ、私達には想像も出来ないことをなさってくるかもしれないし、中には人に紛れ、外界の暮らしを楽しむ方もいらっしゃるかもしれないですよ。」
「月読命様は、外界に行きたいと思ったことはないのですか?」

月読命は、この月めくり中、天上から移動する事は叶わない。月めくりが終わってから、帰ってきた神々達に外界の話を聞くのが、毎年の恒例となっていた。
「………最初は、私も外界に行きたいと思っていましたが、今ではもう、何も思わなくなりましたね。もしかしたら私の気が付かぬ間に、自分で納得したのかもしれません」
そう言っていた月読命の横顔が、なんとなく寂しく見えた万月は、話を変えようと話す事を思案していたら、月読命から話しかけられた。
「万月こそ、羨ましくないのですか?他のお付きの者達は主である神に付き添い、外界に降りています。私の付き人になった為に、万月はここに居なければならないのですよ。」
「私は、他の者を羨ましく思った事はありません。私の主は月読命様で、私は月読命様の事をお慕いしているのです。今この時は、私にとってとても贅沢で、とても幸せな事なのです」

そんな万月の素直な言葉が月読命は、とても嬉しかった事は、言うまでもない。

「万月。一緒に、月見酒でもしましょうか?どうですか?」
「はい、もちろんです。それなら、さっそく準備してきますね」

万月はそういうと、席を外した。
月読命だけになったこの場所で、静かな柔らかい風が吹く。
その風に吹かれながら月読命は月を見上げている。

自分とよく似た雰囲気を纏う月。
夜の統治を任された時から続けてきた月めくり。まだ見ぬ外界に思いを馳せし時、月読命は、何を思うのだろう。

「月読命様。持って参りました」
「ありがとう万月。さあ、さっそく月見酒といきましょう」
「はい。月読命様」

こうして、月めくりの日は更けていく。

静かに、そっと、更けていく。

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