【第1回】植田和男次期日銀総裁候補について 

 2月24日と27日、衆参の議院運営委員会で日銀総裁候補の植田和男氏への所信聴収が行われた。植田氏の対応ぶりがあまりに無難すぎて拍子抜けしたが、質問者のほとんどの国会議員が金融政策をわかっていないことも明るみに出た。だが、自民党参議院幹事長の世耕弘成氏の質問は興味深いものだった。

 「アベノミクスを継承するのか」という世耕氏のシンプルな質問に対し、植田氏は「共同声明に入っているような日本銀行が目標とするインフレ率が2%、持続的安定的な2%を達成するということ、これは続けるという意味で踏襲する」と応答した。

 また、植田氏は「安定的持続的な2%インフレ達成のためには、あるいはそういう状態にたどり着けば、物価だけでなくて賃金・雇用が安定的持続的に上昇するという状態になる。それを目指して金融緩和もその途中の過程では続ける」とも発言した。

 植田氏のこの発言を聞いて、一先ず安心した。少なくとも、日銀総裁就任直後の金融政策の修正は、ないと見てよさそうだ。

 金融政策は何を目指すものなのか。その答えが『安倍晋三 回顧録』に次のように記されている。

 「世界中どこの国も、中央銀行と政府は政策目標を一致させています。政策目標を一致させて、実体経済に働きかけないと意味がない。実体経済とは何か。最も重要なのは雇用です。2%の物価上昇率の目標は、インフレ・ターゲットと呼ばれましたが、最大の目的は雇用の改善です。マクロ経済学にフィリップス曲線というものがあります。英国の経済学者の提唱ですが、物価上昇率が高まると失業率が低下し、失業率が高まると、物価が下がっていく。完全雇用というのは、国によって違いはありますが、大体、完全失業率で2・5%以下です。完全雇用を達成していれば、物価上昇率が1%でも問題はなかったのです」

https://twitter.com/yoichitakahashi/status/945609696622157825

 この完全雇用とは「NAIRU(インフレ非加速的失業率)」とほぼ同じものだ。NAIRUとはインフレ率を安定的に保つ失業率の閾値であり、失業率がNAIRUを下回るとインフレ率は上昇していくとされる。逆に言うと、インフレ率を上昇させ続けないという維持可能な経済において、最も雇用状態がいい場合の失業率がNAIRUである。

 植田氏の発言は、金融政策はNAIRUを目指す雇用政策であるということが明確ではない。もし、物価高や円安を背景に利上げをしてしまったら、企業活動に影響が出て雇用が損なわれるだろう。

 現状の日本経済を見ると、総務省が1月31日に公表した完全失業率(季節調整値)は2・5%だった。しかし、これは雇用調整助成金で実態より抑えている。また、インフレ率はGDPデフレーターで見た場合、1・1%なので、インフレ目標2%達成には程遠く、金融緩和の継続は必要不可欠だ。

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