ナナシスと春

春になるとナナシスの曲をよく聴くようになる。

ナナシスは私が中学生の時にサービスを開始したソシャゲで、近々10周年を迎えようとしているらしい。すごく簡単に説明すると、2034年の近未来の東京を舞台に、プレイヤーが劇場の支配人となってアイドルを育成するゲームだ。音ゲーで、かつてはポチポチゲー要素も結構あった。今もあるのかな。
そして音ゲーなので、アイドルたちが歌う楽曲が作られている。のだが、これが、私の中で、飛び抜けて好きなのだ。という話をこのnoteではします。

ナナシスの曲の温度感が好きだ。私の中でそれは限りなく春に近い。
ネガティブな私を無理に持ち上げようとするでもなく、ただ側面からそっと支えてくれるみたいな明るくて暗い歌詞。シャラ、シャラ、と吹く柔らかな風みたいな音。
暖かくて冷たい春に近い。

私が初めてナナシスを認知してアプリを入れたのは2015年とか16年とかで、私は中学生だった。そして一時期ぐっとハマったのが2019年、高校2年生のころ。
長い時を経て、私はもうすぐ22歳になろうとしている。
去年の春先も引っ越しの準備をしながらナナシスの色々な曲をループしていた。その前の年は入試の直前、お守りみたいに何回も何回もプレシャス・セトラを聴いた。
衣替えをするみたいに、今年もまたぼんやりナナシスの曲を思い出しては、何度も聴きかえす。
きっとハマった時期が春休みだったから、初めてイベントを走ったのが春の晴れ間だったから、理由の本当のところはそんな単純なことなのかもしれない。熱心なファンの人からしたら、今現在ではもうグッズを集めたり課金したりせず、サブスクで曲を度々聴くだけの、それだけでファンを名乗る私は軽薄な存在かもしれない。
でも私にとってナナシスの曲は、間違いなくティーンの私を形成した要素のひとつであり、青春のひとつだった。そんな風にのたまうことを許してほしい。

私的・春のナナシスプレイリスト

ここからは私が個人的によく聴く曲について、プレイリストに沿って書いていく。
それって私の感想です。完全に。今読み返してみたら自分の話しかしてないような箇所もあるし。でもまあ、元は日記の体で始めたから……
最初にハマっていた時期について書きましたが、それ以外の時期はほぼエアプなので、「にわかファンが楽曲だけ聴いて考えたこと」というミリしら的な観点からも見れるかもしれません。重ね重ね、熱心なファンの方にはお詫び申し上げます。


1. WITCH NUMBER 4 「SAKURA」

春に聴きたい曲を紹介するにあたってSAKURAは外せないだろう。
春を歌うアイドルソングで、ここぞとばかりに切ない諦めの感情にフォーカスした曲を作る辺りに、私は勝手にナナシスらしさというか、作詞・SATSUKI-UPDATE氏らしさというか……を感じてしまう。なぜならそういうとこが好きだから。
「あの並木道 今年も色づきはじめる」の辺りのロナのソロが特に好き。彼女の内側にどんな感情があるのだろう。


2. WITCH NUMBER 4 「星屑☆シーカー」

まさに丁度いい温度感。
「毎日ヘラヘラ笑って 最終電車が回って 延々タクシー拾って 最近愛情はイマイチ」
「誰かと約束がしたい ひとり忘れてしまわぬように」
WITCH NUMBER 4は幾つもあるユニットの中でも割と正統派・カワイイ寄りのユニットと認識しているが、割と「上手くいってない女の子」を描写した楽曲が多い(ナナシス楽曲全般そうかもしれない)。ラブコメディのヒロインみたいな、完璧に繕われた可愛さよりもちょっぴりリアリティがある可愛さをしている。ナナシスの楽曲はそういった意味でいつも少しだけ画面を超えてくる。多分、けっこう意図的に。


3. WITCH NUMBER 4 「PRIZM♪RIZM」

この曲を聴くとはちゃめちゃな懐かしさに駆られてしまう。2015年。
私は自分のことをドンピシャのボカロ世代だと思っているのだが、この曲はかなり概念としての「ボカロ色」が強いのではないだろうか。テクノポップというジャンルや近未来というテーマの特性上、ボカロっぽい雰囲気との相性が抜群だと感じる。
曲自体も大好きなのだが、だからこそ、この曲の懐かしさを聴きにいってるようなところがある。近未来コンセプトの曲で懐かしさを想起するという楽しい矛盾。


4. SiSH 「AOZORA TRAIN」

SiSHの楽曲はもはや暴力的なまでに綺麗だ。美し過ぎて食らってしまう。
水彩絵の具を溶いた色水みたいな伸びやかな声。性格も雰囲気もバラバラな三人の歌声は、透明な化学反応を起こして、何にも代え難い完璧なハーモニーを織りなしている。この曲を聞いてる時、今いる空間が広く感じる。どこまでもいけそうな浮遊感がある。空を見ている時と同じ気持ちになる。
「もうずっと そうギュッと 抱きしめたいけど 言い訳を集めて
「笑って、意地悪なその声で」言えないからせめて 一緒に次の駅まで」
好きな歌詞はここかな。


5. SiSH 「プレシャス・セトラ」

この曲も私の中ですごくしっくりくる温度感をしている。
序盤にこの曲を受験のときにお守りのように聴いていたと書いたが、それはこの曲がメンタルの波を保つのにちょうどよかったからだ。
受験という一世一代の大勝負において、メンタルを上げ過ぎず、下げ過ぎず、慢心せず、絶望せず、その中間をいかに保つかが……特に、一日の中で日経平均株価のごとく情緒が揺れ動いていた受験期の私の中では最重要事項だった。
その点プレシャス・セトラは完璧だった。重要なのは上げ過ぎないことだ。心の奥底から情熱を湧き立たせてくれるような曲が必要なタイミングももちろんあるし、それ用のプレイリストにも、何度も助けられた。が、本番で上げきったまま突き進むと危ないこともあるのだ(あくまで私はね)。
この曲の歌詞はあまり断定をせず、曖昧な部分が多い。それでいて「二度と戻らない特別な今をプレシャスにしてね」と念はしっかり押してくれる。さらにその後には「とりあえず今日もお疲れ様です」と背中をさすってくれる。これが軽やかなメロディと相まって、真ん中の心を作るのにちょうど良い。
ありがとう、この曲を作ってくれた人。私は今、これを聴きながら向かった受験先で大学生をしています。そして今もたくさん聴いてます。


6. SiSH 「さよならレイニー・レイディ」

この曲はとにかく歌詞が好きなので、シンプルに好きな歌詞を羅列する。
「君の好きな春の雨が あの日もふたりに注いで
なにか言ったら 消えちゃいそうで 僕は言葉を失くして」
ありありと情景が浮かんでくる。君の好きな雨はきっと霧雨で、後ろのキラキラした音は天気雨を連想させる。雨が降る前兆の土の匂いとそれを運ぶぬるい風まで思い起こさせる。
「くだらない話を覚えてみたけど 僕は元々くだらない」
私はこの歌詞がめちゃくちゃ好きだ。この一文には優しくて繊細で臆病な「僕」のらしさが滲み出ているなと感じる。
「眠い顔や拗ねた口とか 何より綺麗な耳が
雨上がりのように光っただけで 僕は泣きそうで」
「何より綺麗な耳」!耳なんだ。ここで耳を持ってくるワードセンスも好き。
これだけでは拾いきれないニュアンスを捉えるために、どうかこの歌詞を全文読んでみてほしい、ぜひ曲という形で。


7. Le☆S☆Ca 「YELLOW」

ユニット名のLe☆S☆Caはレスカ、「レモンスカッシュ」の略称。
そんな彼女たちのデビュー曲らしく、ぽかぽかした多幸感に満ち溢れている。
レモンの黄色、希望や幸運、幸福を想起させる黄色。春の晴れの日の、少し強くなってきた日差しのきらめきを感じるような。
けれど歌詞をなぞればやはりナナシスらしく孤独に寄り添ってくれている。新生活のせわしない背中をとん、と押してくれるみたいなYELLOWは、入学式や入社式、新しい環境へ向かう電車の中で聴きたくなる、はじまりにぴったりの一曲。


8. Le☆S☆Ca 「Behind Moon」

歌詞に「冬の香りがした」とかあるんだから春とはちょっと違うだろというツッコミが飛んできたら、確かにそう。と言わざるを得ません。それでも私がこの曲を紹介したのは、ただ単にこの曲のことが大好きすぎるからで、ぶっちゃけ春夏秋冬いつでも聴きたいからです。
Behind Moonは初めて聴いた中学生の時からずっと、ナナシスの楽曲の中でも第一線で好きだ。私は恋愛ソングの歌詞にいたく共感するというタイプではあまりないが、世界観として切ない曲が好きだ。つまりこの曲の世界観が大好きなのだ。
この曲の透き通った氷みたいな歌声は全編通して深く刺さるのだが、ラスサビ前(3:33頃)のレナの「二度と会えないくらいなら」は、個人的にナナシスの全楽曲の中でも一番好きなフレーズかもしれない。とにかく聴いてほしい、心を惹きつけ鷲掴みにしてくる、訴えかけるような寂しい歌声を。

「仄暗い月の陽から あなたの言葉探しました
静かな夢の世界なら 壊れそうなほどに抱いてくれるの?
あなたのいない世界では なにもかもが枯れてしまうの」
「どれくらいの光なら あなたの髪にさわれますか?
二度と会えないくらいなら 月の裏側で燃え尽きていいの」
「微かに射す月の下で はぐれないように 繋いだ手の温もりが まだ消えない」
選ばれる言葉の静謐さや深い色味。SATSUKI-UPDATEの感性を信仰しそうになってしまう。
この曲に登場する少女は憔悴し、重ための感情に浸りきっている。前を向けるような感じでもない。YELLOWのB面にこの曲が来ている辺りやゲームバージョンのジャケット、Behindという単語からもこの曲が明確に「対」を意識して作られた楽曲であることが窺える。YELLOWが光ならBehind Moonは影。黄に対する青、太陽に対する月。


9. Le☆S☆Ca 「ひよこのうた」

ひよこのうた、良いよね。一見、子供向けソングかなと思わせておいて、「難しいものね人生は」と、仕事に恋に伸び悩むアラサーOLの心境を歌った曲だ。ちょっと疲れた大人の女性を等身大で描いた楽曲という点で、WITCH NUMBER 4の星屑☆シーカーと同じ系譜ではあるのだが、なにが違うかといえば、それぞれのユニットが向いている時代の方向性ではないだろうか。
瑞々しさはありつつも、どこかレトロな風合いを想起させるのがこのユニットの特徴だと私は考えている。WITCH NUMBER 4のコンセプトが「近未来」的であるならば、Le☆S☆Caには昭和のアイドルっぽいような、懐かしさを携えた可愛らしさがあるように思う。


10. サンボンリボン 「14歳のサマーソーダ」

もうタイトルからサマーだし。これは歌詞も何もかも、確実に夏の曲です。それに、サンボンリボンから春曲を一つ選出するなら、他の選択肢だって色々あります。それでもなお、この曲を推してしまう理由は、もはや言うまでもなくこの曲のことが好きすぎるからで、春にもめちゃくちゃ聴いてしまうからです。
タイトルの「14歳のサマーソーダ」はおそらく「13歳のハローワーク」が元ネタだろう。13歳のハローワークというのを私は、中学生に向けて職業を紹介するような本だとふんわり認識していたが、調べるとどうやらこの本をモデルにしたTVドラマがあるそうだ。Wikipediaによればそのドラマは「現代の男がタイムスリップで過去の自分に出会い、過去の自分を変えることで現在の自分をひっくり返す」という物語らしい。
巧みだ。「14歳のサマーソーダ」は、過去の回想と後悔を歌った曲なのだ。
好きな歌詞を紹介したい。明らかに好きな曲の文章量長くてごめんなさい。
「君の汗ばんだ Tシャツについたタグ
おどけたまま笑う癖と 蝉時雨と雨の予感」
この歌詞、初めて聴いたときからずっと感動している。情景描写だけでここまで心や距離感が描けるんだ、ということや、たぶん14歳の「君」のディテールの鮮明さ。この曲はもうほとんど短編小説だ。
「微かに冷たさの残る陽炎」
危ない。私が本当に14歳の頃にこの曲を聴いていたらこの歌詞をLINEのステメに設定してしまうところだった。
いつまでもロンリー・フォーティーン・ソーダ。ピカピカに晴れた夏の日に一人でいる時に感じる、自分の相応しくなさっていうか、勿体なさみたいな、絶妙な気持ちを想起する。包まれた日々を思い出すようなサウンドに晴海三姉妹の優しい歌声が効いてる。あと、私はサワラお姉ちゃんが好き。


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