見出し画像

【短編小説】情報通(第二話)

 どこにでも情報通はいるものだ。
 その界隈の話題に詳しいのである。
 どこで仕入れてくるのか。
 会社の近隣の事に詳しい。
 その界隈の昔の話しやら、最近の話題などをよく知っている。
 そのビジネス街に引越ししてきてから、既に十年近くになるある会社の社員の中の一人が、いわゆる情報通なのだ。
 本人曰く、
「情報収集は、近所の人と仲良くなることだ。気さくに話し合える心掛けを持って接することだ」と自慢げに話す。

 これから書く事は彼から聞いた話である。

第二話

 その会社が入居しているビルの、右並びの二軒先のビルの一階と二階のカレー店が、店じまいをした。

 一ヶ月程経ってから、一階と二階の改修工事が始まった。
 今度は焼肉店になるらしい。

 オーナーは女性で、アメリカに嫁いでいる娘が、この度、里帰りをするので、それに合わせて開店するらしい。
 排気は隣のビルの間に、それも道路と反対側に出すらしい。

 ある日、情報通に、そのオーナーが、ぼやいたそうだ。
 そのビルの二階の使用方法で、ビルの管理組合と揉めて、裁判沙汰になっている。
 どうしてか..…、一階は店舗でいいのだが、二階は住居仕様のため店舗にしては駄目らしい。
 一階から二階に昇るのに一階の店舗内から行くしかなく、一・二階とも店舗にしたいが、組合はノーとのこと。
 仕方なく裁判で争っている。
 
 この地に来る前は、近くのビルで焼肉店を開く予定だったが、それも出来ず、やむなく同じ並びの違うビルの一階と二階を借りて、商売をすることにしたそうだ。
 その女将は西新宿で焼肉店をやっていたが、昔から馴染みのこの地で、商売を夢見ていた。
 しっくりしないらしいが、頑張るつもりだとのこと。

 悪いことは、続くもので、その焼肉店の内装工事業者が、ほぼ完成した店舗の看板やら、設備機器などを合鍵を使って持ち去ってしまったらしい。
 支払いのトラブルから、そのような行為になったらしい。
 情報通は、その店のオーナーにも問題があるのではと一瞬思ったが、黙っていた。

 女将は、弁護士を通して、その業者と交渉しても埒があかず、諦めて、違う業者に頼み、やっと一階だけで開店にこぎつけたらしい。
 繁盛してもらいたい。

「あなた(情報通)が、毎日通ったら」との皮肉が聞えそうだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?