見出し画像

【連載】しぶとく生きていますか?⑤

 ほっとするまもなく、茂三は駐在所の田所とともに、庶野で一軒しかない神峰診療所にむかった。
 診察の結果、左頬の傷口は、ヒグマの爪が意外と深く入り込み、一部肉が抉られていた。
 傷口を消毒し軟膏を塗り包帯を巻いた茂三の顔は、痛ましい姿であった。しかし、茂三はこれくらいの傷には動揺した顔を見せず、平然としていた。診療に当たった神峰医師は、茂三の泰然とした態度に内心驚いた。
 茂三は顔の怪我よりも、手負いのヒグマを、どんなことをしても仕留めてやると思った。そうしなければ、被害者が出る。
手負いのヒグマは興奮しているため非常に危険なのだ。

 診療所を出た二人は、急ぎ駐在所に戻った。既に浦河から五人の応援が来ていた。
「皆さん、ありがとうございます」と田所は浦河から来た応援部隊に礼を言った。
 その応援部隊の中心者の木下警部が、
「田所さん、今までのいきさつを詳しく教えてくれないべか」と言った。
 田所の話を聞いた木下は、皆を見回し、
「事情は承知した。そこで二手に分ける。手負いグマ対応に四人、フンコツのクジラ対応に一人とする」
 直ちに茂三と浦河から応援に来た佐伯という巡査とフンコツに急いだ。派出所の田所が、若い衆を何人かフンコツに派遣してくれる算段をしてくれた。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?