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しぶとく生きていますか?

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北海道えりも町を舞台に、主人公の一人の男を通して、「しぶとく生きる」 とは? という自然と人間の共存を問う作品です。
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記事一覧

【連載】しぶとく生きていますか?➀

私が生まれた北海道の襟裳岬周辺を舞台とした小説です。 襟裳の厳しい自然に立ち向かう、主人…

杜江 馬龍
5か月前
62

【連載】しぶとく生きていますか?②

「おーい、クジラがトンネルの向こうの岩場に流れ着いているぞ」  家に戻った茂三が、家に入…

杜江 馬龍
5か月前
41

【連載】しぶとく生きていますか?③

 朝の七時ごろ庶野の駐在所に着いた茂三は、そこの駐在員の田所を起こし、玄関先でクジラとヒ…

杜江 馬龍
5か月前
37

【連載】しぶとく生きていますか?④

 そのヒグマは銃弾を右肩に受け、すぐ方向を変え裏山の茂みの中に消えた。  傷を負ったヒグ…

杜江 馬龍
5か月前
39

【連載】しぶとく生きていますか?⑤

 ほっとするまもなく、茂三は駐在所の田所とともに、庶野で一軒しかない神峰診療所にむかった…

杜江 馬龍
5か月前
36

【連載】しぶとく生きていますか?⑥

 フンコツの隧道に到着した茂三と佐伯は、あまりの人だかりに驚いた。どこから聞きつけたのか…

杜江 馬龍
5か月前
42

【連載】しぶとく生きていますか?⑦

 我が家に戻った茂三家族は、クジラの肉を食べた。美味しかった。 「母さん、うめえな」と茂三は妻の淑子に、焼酎をぐいと引掛けながら話すのであった。 「あんた、顔の傷にさわるから、あまり飲んだら駄目だべさ」と言いながら、調理したクジラの肉を眺めながら嬉しそうに茂三をたしなめた。 「おれも少しもらっていいか?」と一茂が箸をだす。 「ところであんた、明日は早くに庶野に行くんだべ」淑子がクジラの肉を頬張りながら茂三に聞いた。 「トラックの運転手の話しでは、まだヒグマが見つかっていないと

【連載】しぶとく生きていますか?⑧

 次の日の朝早く、茂三は自転車を転がせ、庶野に向かった。  口笛を吹きながら茂三は自転車…

杜江 馬龍
5か月前
34

【連載】しぶとく生きていますか?⑨

 年も改まり、五月の初旬、加藤茂三はいつものように朝早くから家の前の海岸で、流れ着いた昆…

杜江 馬龍
5か月前
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【連載】しぶとく生きていますか?⑩

 山を下りたマタギから、田所巡査を通して、茂三がその話を聞いた。  ある日、庶野に出向い…

杜江 馬龍
5か月前
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【連載】しぶとく生きていますか?⑪

 昭和十一年の夏、茂三はそのころ、柳田國男の『野鳥雑記』を読んでいた。茂三はよく本を読む…

杜江 馬龍
5か月前
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【連載】しぶとく生きていますか?⑫

 どのくらいの時間が経ったのだろうか……….。  真っ暗な空間の遥か先に、微かな光が点滅…

杜江 馬龍
5か月前
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【連載】しぶとく生きていますか?⑬

 淑子は今朝がた昆布拾いに出かけた茂三の帰りが遅いことに、どうしたのかと首を傾げた。  …

杜江 馬龍
5か月前
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【連載】しぶとく生きていますか?⑭

 茂三はその小舟に乗った。船頭が櫂をこぐ。ギィギィと音がする。遠くを眺めると、彼岸は荒涼とした風景で、心寂しい感じがした。  真っ赤な彼岸花が一面に咲き誇っていた。  小舟を降りると、そこに老人が立っていた。口が耳元まであり、しゃべるとほとんどの歯が抜け落ちており、残っているのは二~三本のみだった。 「茂三よ、よくおいでなすった」とその老人が言った。茂三は、 「爺さんよ、俺はこれから、どこに行けばいいんだべか」と尋ねた。 「お前さんは、生前どういうことをしたか、このおいぼれ