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小さな恋のものがたり。

小学校5年生になった新学期。
彼は転校生だった。

ちょっとカッコよくて、優しくて、面白くて、だんだん好きになった。

私は彼が好きだった。
彼も私が好きだった。

なんとなく、わかってた。
多分お互いに。


中学生になるとき。
私が転校生になった。

私は彼が忘れられなくて、
中1の冬
バレンタインデーに手紙を書いた。

そうしたら、ホワイトデーに返事が来た。
好きな音楽とか、クラスの様子とか、そんな日常が描かれていて、嬉しくて何度も何度も読んだ。


中2の冬も手紙を書いて
春先にまた、返事をもらった。

2月14日に届くように投函して
3月14日のポストには、手紙が届いた。


中3の冬、これで終わりにしようと
最後の手紙を書いた。

そうしたら、
「みなとみらいで会おう。」

日にちと時間と場所が書かれていた。



中学を卒業して
3年ぶりに会った彼は

びっくりするほど背が高くなっていて
何だか別人のようだった。

臨港パークをゆっくり歩きながら
初めて手を繋いで歩きながら

嬉しいような、でも別世界に来てしまい、
地に足がついていないような感覚で…
何を話していたのだろう。


別れ際、ラルフローレンの
キーホルダーをもらった。

彼は黒のレザー
私はブラウンのレザー

「お揃いなんだ」

そう言った彼の顔は
大好きだった6年生の頃の
彼だった。

次に会う約束は、しなかった。



高校生になったら、
急に大人の、新しい世界が開けた気がした。

部活や友だちと遊ぶことが楽しくて、彼のことをだんだんと思い出さなくなっていた。

部活の先輩や、サッカー部の同級生。
新しい恋もした。


そんな、高校生活も3年生になった頃
突然彼から電話があった。

友人と原付で、近くまで来たと。

久しぶりに会った彼は、
また背が高くなって
身体もガッチリとしていて

6年生の頃の面影は、全くなかった。


初めて「付き合ってほしい」と
はっきりと伝えてくれた。

私は、来てくれたこと、伝えてくれたことにお礼を言って、付き合うことは断った。

私の恋は
小学校最後の2年と、中学校の3年間で
終わった気がした。



高校を卒業して、20歳も過ぎた頃
また突然彼から連絡があった。

久しぶりに思い出して、
どうしてるかな、って。


私は短い恋に敗れ、半ば自暴自棄。
彼は年上の女性と付き合っていたが、価値観や時間が合わなくなり、少し前に別れたという話だった。

夜遅く、彼が迎えに来てくれて、数年前に手を繋いで歩いたみなとみらいを、車でドライブした。今度は深いキスもした。


それから、雑多な伊勢佐木町の繁華街にある
ホテルに入った。

何だかすごく、女性の扱いに慣れている感じがした。私の中に僅かに残っていた、大好きだった人の感覚を勢いで上塗りしてしまった気がして、後悔した。


聞けば大学2年を終えて、そのあとはアメリカへ留学するとのこと。

少し眠ったあと、明け方の閑散とした伊勢崎町から自宅に送ってもらい、彼とは別れた。 



もしかしたら、小さな恋は小さなままで終わった方がよかったのかもしれない。




何だか寝付けなくて、幼かった自分が一生懸命だった恋を思い出した。

もう、そこそこいい年。彼も私も。

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