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【短編小説・1人用朗読台本】無機質な世界より、アイをこめて。 ⑧Dream

この作品は、声劇用に執筆したものです。
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ある日、世界は私だけを残して、止まってしまった。
これは決して比喩ではない。文字通り、止まったのだ。
当たり前のように、目を覚ますと止まっていたのだ。
これは、そんな世界で生きた、一人の愚かな人間の手記である。

ーきずつくことになっても。
 くるしむことになっても。
 なくことになっても。
 ワタシはこのセカイを、どうしようもなくアイしていたー

※このシナリオはシリーズ台本です。単体でもお楽しみいただけますが、シリーズを通してご覧いただいた方が、より楽しめるかと思います。

【上演時間】
約10分

【配役】
ワタシ(男):ジブン
    ※性別変更可

ジブン(男):ワタシ 
    ※性別変更不可

※このシナリオはシリーズ台本です。単体でもお楽しみいただけますが、シリーズを通してご覧いただいた方が、より楽しめるかと思います。


ワタシ:セカイのジカンがとまっていた。
ワタシ:そのセカイで、ワタシはいきていた。
ワタシ:…いきて、いた?
ワタシ:コキュウ。くるしい。
ワタシ:ワタシはいきているのか?
ワタシ:セナカ。とまらないアセ。
ワタシ:いきているといえるのか?
ワタシ:アシ。うごかない。
ワタシ:いきたいとおもっていたのか?
ワタシ:ショウドクエキ。シのにおい。
ワタシ:そんなこと、おもっていなかった。
ワタシ:マブタ。おもい。
ワタシ:シがちかづいている。
ワタシ:これが、シというものか。
ワタシ:あっけない。
ワタシ:ああ、ワタシは…



ワタシ:メがさめる。
ワタシ:アパート。イッシツ。
ワタシ:タイヨウ。まぶしい。
ワタシ:フクロ。ニオイ。シゲキ。
ワタシ:クルマ。エンジン。
ワタシ:トケイ。ビョウシン。

ジブン:――やあ、やっとおきたのか。

ワタシ:ゲンチョウ。ゲンカク。ワタシ。

ワタシ:――あ…あ…あぁっ…

ワタシ:ノド。コエ。イタミ。

ジブン:――おいおい、なにおどろいたカオをしているんだ?ワタシはアンタ。アンタはワタシだ。

ワタシ:チョウショウ。ジチョウ。シュウアク。
ワタシ:しらない。みえない。きこえない。
ワタシ:こんなの、ワタシじゃない。

ジブン:――ワタシをすててジブンだけにげようなんて、そんなことはゆるさない。

ワタシ:ネット。ケンサクリレキ。
ワタシ:「ジサツ ホウホウ」
ワタシ:ケンサクケッカ。
ワタシ:デンワソウダン。ジサツタイサク。
ワタシ:シッパイ。コウイショウ。
ワタシ:ソンガイバイショウ。メイワク。
ワタシ:ケンサクリレキ、サクジョ。

ジブン:――ずいぶんとながいユメをみていたようじゃないか。どうだい、たのしいユメをみられたかい?

ワタシ:サイゴのキオク。
ワタシ:サケ。タバコ。ジボウジキ。
ワタシ:ニンゲンフシン。コリツ。
ワタシ:クスリ。ゲンジツトウヒ。
ワタシ:そして、ユメ。

ジブン:――ゲンジツでくるしくいきることも、ジブンでしぬこともできなかった。いつもそうだ。アンタはチュウトハンパでイヤなことがあるとすぐににげだすオクビョウモノだ。

ワタシ:ズツウ。はきけ。
ワタシ:あきらめていた。
ワタシ:マットウになんていきられない。
ワタシ:それでも、ワタシは、イチドだけでいい。
ワタシ:ユメをみたかった。

ジブン:――ユメをもてないニンゲンがたのしいユメをみられるなんておもったのがまちがいなんだ。アンタはユメをもつこともみることもできない。それはわかっていたことだろう。

ワタシ:サイゴにみたながいユメ。
ワタシ:ジカンがとまっていたのは、ワタシのほうだった。
ワタシ:いきているといえないのは、ワタシのほうだった。

店員:――アナタのユメは、なんですか?

ワタシ:…そんなもの、ない…

患者:――わたしのぶんまでユメをみてよ!

ワタシ:そんなこと、いわないでくれ…

優等生:――だから、かってにユメをボクにおしつけたんですか?

ワタシ:ちがうっ…そんなつもりじゃ…

生徒:――ボクは、キミっ…といれた、から、…たのしかっ…た、よ。

ワタシ:ワタシは、キミにユメをみせたかったよ。

役者:――ユメなんてみても、コウカイするだけだぞ。

ワタシ:ワタシはアナタをみてユメをもちたいとおもったのに…

薄弱者:――ワタシには、ユメをみせてあげることができなかった…

ワタシ:ワタシこそ、アナタのユメをかなえることができなかった…

先生:――キミにはケンリがある。ユメをみるケンリも。ゲンジツからにげるケンリも。ジユウにいきるケンリも。ジユウにしぬケンリもある。

ワタシ:そのケンリをコウシして、ワタシはユメをみた。そして、ジユウにいきようと、ジユウにしのうとした。

ジブン:――アンタはけっきょくジブンのイバショがほしかっただけだ。それをユメのなかにまでもとめた。

ワタシ:どこでもよかった。
ワタシ:どうなってもよかった。
ワタシ:エイエンのねむりになってもよかった。
ワタシ:しんでもよかった。
ワタシ:そこにイバショがあるのなら。

ジブン:――そのケッカはどうだ?ユメのなかでジブンのイバショはみつけられたか?ジブンのソンザイイギをみいだすことはできたか?

ワタシ:シニタイ。
ワタシ:ゲンジツなんてみたくない。
ワタシ:そうおもってユメをみた。

ジブン:――どこにもオマエのイバショなんてない。すくいなんてない。だから、もうあきらめるしかないだろ?シニタイっておもっているんだろう?…なぁ。

ワタシ:けれども、イマ。
ワタシ:ワタシはおもってしまった。
ワタシ:ワタシは…

ワタシ:――…イキ、タイ…ッ

ジブン:――……!なんで、…なんでっ…

ワタシ:ひとりのほうがラクだ、ジユウだといってきた。
ワタシ:ジブンにいいきかせてきた。

ジブン:――もうおそい。アンタはもういきることはできない。

ワタシ:けれども、ワタシはココロのソコでは、おもっていた。
ワタシ:ダレかにあいたい。
ワタシ:もうイチド、カレに、カノジョにあいたい。
ワタシ:だからこそ、ユメのナカでもカレら、カノジョらがでてきた。

ジブン:――アンタはずっと、いきることで、ダレかとかかわることで、ずっとくるしめられてきた。それなのに、なぜ、いきることを、ダレかにあうことをねがう…?

ワタシ:きずつくことになっても。
ワタシ:くるしむことになっても。
ワタシ:なくことになっても。
ワタシ:ワタシはこのセカイを、どうしようもなくアイしていた。

ジブン:そんなのキレイゴトだ。アンタがこれイジョウきずつくヒツヨウはない。このままいさぎよくしんだほうがラクだぞ…。

ワタシ:それでも、ワタシは、ダレかとはなしがしたかった。
ワタシ:ダレにもアイされないとしても、ダレかをアイしていたかった。
ワタシ:それが、ワタシのユメだ。
ワタシ:そんなことに、イマサラになってきづいた。

ジブン:――これからしんでいくしかないアンタがユメをかたるのか?ムダだ、そんなことっ…。

ワタシ:ワタシには、もうジカンがない。
ワタシ:だから、ワタシはこのシュキを、サイゴのキボウとする。
ワタシ:もし、このシュキをよんでいるモノがいたならば。
ワタシ:ワタシのこのオモイを、キオクのナカで、ほんのすこしだけでいい。
ワタシ:おぼえていてくれはしないか。

ジブン:――それで、アンタは…ワタシは、すくわれるのか?いきていたイミがあったと、いうのか?

ワタシ:ワタシがいきていたことを、どうか、みとめてほしい。
ワタシ:そうすればきっと、ワタシはワタシをゆるすことができる。

ジブン:――そうか……ありがとう。

ワタシ:カナシミにあふれたセカイのカタスミで、ワタシは、たしかにいきていた。
ワタシ:このジジツがいつかわすれられてしまうそのヒまで。
ワタシ:ワタシは、このセカイを、このセカイにいきるヒトビトをあいする。
ワタシ:ムキシツだったセカイより、アイをこめ…(以後文字がかすれている。)

                    《つづく》

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