カップ焼きそば

障害者グループホームで暮らしている。
グループホームの社長はとっても優しいお兄さんで、わたしは社長が大好きだ。
こないだの面談のとき、社長がカップ焼きそばを買ってきてくれた。

ドアのノックがあり、カギを開けると社長が立っていた。
「とりこさん、夕飯なんか食べました?」
「焼きそば買ってきたんですけど」
焼きそば?
社長お祭りにでも行ったのかな?
「あんまり食べてないです。
ありがとうございます!」
そう答えて、いつものように台所に行き、イスに腰かけた。
社長はビニール袋からカップ焼きそばを2つ出すと、共用のポットでお湯を沸かし始めた。

セブンプレミアムの、1分でできるカップ焼きそばだ。
お祭りとかの焼きそばではなかったな、と思った。
けれど考えた。
今日早めに面談してもらえないですか?と連絡したことで、社長はきっと自分の夕食の時間に来てくれたのだろう。
そして、自分だけ食べてちゃ悪い、と思ってわたしのぶんもカップ焼きそばを買ってきてくれたのだろう。
申し訳ない。

「1分経ったんじゃないですか?
1分ってあっという間ですよね」
わたしは流しで湯切りした。
社長も湯切りした。
そして、液体ソース、粉末ソースをかけて、焼きそばをよく混ぜ食べ始めた。

「こういうのがいちばん美味いんですよね」
社長は言った。
「特に夜中なんかに食べると美味しいですね」
わたしは答えた。
食べながら、なにを話したかよく覚えていない。
ただ、カップ焼きそばを食べながら、わたしはとっても楽しかった。
この世でいちばん美味しいものは、大好きな誰かと食べるカップ焼きそばだ。
そんな気がした。

「ゴミはこの中に入れていいですよ」
社長は後片付けまでしてくれた。
そして言った。
「こういうのもいいですね」
わたしは言った。
「ありがとうございます。
わたしほんとうに社長のことが好きなんですよ」
下心があったわけではなかった。
ただ、いつもおおらかな社長のことが、ほんとうに大好きだ、と思った。
社長は笑っていた。
こんなおおらかな人になれたらいいな、と思った。

カップ焼きそばは、ジャンクフードだ。
けれど誰かと笑い合いながら食べるカップ焼きそばは、心の栄養だ。
いつかわたしも、この先出会う誰かを、カップ焼きそばひとつで幸せにできるような、そんなあたたかい人間になりたい。

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