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ぼくにも優しくして

息子に言われ、ハッとした。
夜、旦那は仕事で不在で3歳の息子とまだ生まれて数ヶ月の娘の寝かしつけを1人でしていた時だった。

息子はテンションが下がらずベッドの上ではしゃぎ、娘は眠くてぐずっていた。

もう疲れた、早く休みたい。

その思いでいっぱいでとにかく泣き止ませたくて娘に授乳した。
はしゃぐ息子に蹴られると危ないので、娘を息子から庇うように、息子に背を向けていた。

「ねえママ~」と甘えて、背に乗ってくる。
「今おっぱいあげてるから後にして」

「ねえママ~」と、足を触ってくる。
「足にくっつかないでっていつも言ってるでしょ!」

すっとベッドを降りてどこかへ行こうとするので「ベッドでちゃんと寝なさい!!」と声を荒げた。
「ごめんなさい」としょぼんとする息子。

余裕がない対応なのは自分でも分かっている。でも私がやらなきゃ。
誰も代わってくれないのだから。

娘が寝入ったので、次は息子と思い抱きしめた。
「ママ怒っちゃってごめんね」
「あのね、ぼくさみしいの、ぎゅーして」
私と息子のいつものスキンシップ。
大好きの ぎゅー。

「さみしくないよ、一緒だよ、だいすきだよ」
そう伝えても今日の息子はまだ暗い顔だった。
「どうしたの?」
「あのね、ぼくにも優しくしてほしいの」
しょんぼりとした声で息子が言った。

雷が走ったような衝撃だった。

言わせてしまった、と思った。

娘が生まれるまでこの世の誰より大事だった息子。おそらく、私の愛を誰より受けていた息子。

「ごめんね、ごめんね。大好きだよ。いっぱい優しくしたいのに、ごめんね」そう言って強く強く抱きしめることしかできなかった。

誰より大切だったのに、同じくらい大切な存在が増えたらおざなりにしてしまった。

暗い部屋の中で、自分に背を向けて赤ちゃんとだけ向き合うママを見て、息子はどんな気持ちだっただろう。
くすぐったいと笑ってくれてたママが、怖い顔で怒鳴ってきたらショックだろう。

彼なりに、彼の行動には全部理由があるのに。もう自分の気持ちや考えで行動できる子なのに。

私は、たった3歳のか弱い息子の心を傷つけてしまった。僕より妹の方が大事なの?と遠回しに訴えられたのだ。

生んだばかりだから、身体も心も赤ちゃん側に寄ってしまうのは仕方ないかもしれないけれど。
それでも、息子には妹の存在を邪魔に思ってほしくない、どちらも大切にする。そう決めていたはずなのに。

その日から、授乳の時は息子を隣に誘った。
「こっちにおいで」
そう言って片手で息子に触れたり、頭を膝の上にのせたり。
「大好きだよ」
しつこいくらいに何度も何度も伝えた。

あの日以来、息子は「さみしいの」と言って甘えたあとは満足そうに離れていく。
幸いなことに、「やさしくして」はあれ以来聞いていない。
「さみしい」というSOSを出して、受け止めてもらえる。そんな風に感じてくれてるといいな。

育児疲れはすぐに私の余裕をなくし、イライラモードにさせる。
やんちゃ盛りの息子は、危険なこともたくさんするし、生活のために怒ることも少なくない。

それでも、

あんなに悲しい「優しくして」はもう聞きたくない、言わせない、言わせてはいけない。

息子も娘も、どちらも私の大事な存在でそこに優劣などつけてはならないのだから。

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