見出し画像

法人税シリーズ〜家族同伴海外渡航費は非課税!?〜

 今日は、従業員及びその家族の海外渡航費が給与課税されるか否かが争われた裁決事例をご紹介したいと思います。
 仕事の都合で海外出張する際の通常の旅費が全額給与課税されないということは常識的に考えてもお分かりのとおりですが、今回の事例は逆パターンです。
 
 すなわち、仕事の都合で家族同伴で日本に来ていた従業員が、休暇帰国をする際に会社から家族分も含めて航空券が支給されたというパターンです。


審判所 昭和49年3月12日 裁決

1.事案の概要
  外国法人であるX社の日本支店において、以下のとおり日本に在住の従業員及
 びその家族が本国へ休暇帰国をする際に、往復航空券を支給したことについて、
 国税当局が給与課税した事案。

    地位    金額             期間
 A  役員    324万(B本人、妻、子×2)  2ヶ月(内取引先との打ち
                             合わせも有り)
 B  使用人   122万(A本人、妻、子)3ヶ月(内1ヶ月は研修、他取引
                         先との打ち合わせも有り)
2.審判所の判断使用人    
  業務を兼ねて行われたものであり、使用人を本国に帰国させたものであり、
 定期間(約3年)を超える勤務の後に従来からの慣例に従って帰国を認めたもの
 であって、本人の業績によってその認否および支給額が左右されるような報償的
 性格をもつものではなく、その支給方法は、直行往復の航空券の現物交付の方法
 によるもので、受給者に換価の余地を与えないものである
ことから、A分及びそ
 の家族分の本旅費は、X社の業務上の支出として、X社の処理(旅費交通費とし
 て給与課税されない)が相当と認められる。
  



 今回の事案は「給与か旅費交通費か!?」で争われているのですが、”会社の業務のための帰国”という目的と併せて”従業員の長期休暇のための帰国”という目的もあるため、性質としては「給与か福利厚生費か!?」の争いの要素も加味した話となります。 

 すなわち、会社が負担した経済的利益(今回は往復航空券)が本来従業員個人が負担すべき私的な費用であるのか、会社の業務に係る交通費であると同時に従業員の福利厚生費であるか、という争いです。

 この点審判所は「従業員個人が本来負担すべき私的な費用にはならない」と判断していることから、会社の旅費交通費かつ福利厚生費と認められたと考えることができます。

旅費交通費的要素

 この判断理由を上記の短い「2.審判所の判断理由」から拾っていくと、まず「会社の業務のために要した旅費交通費か否か」という点については、「業務を兼ねて行われたものであり」の一文のみです。
 この点を事実関係から見ていくと、Bであれば少なくとも3ヶ月の帰国中1ヶ月は研修に充てられていたことが分かりますが、もう一つの業務である「取引先との打ち合わせ」については裁決資料からどの程の時間従事していたのかは不明なので、業務従事度の目安を抽出することは難しそうです。

福利厚生費的要素及び給与非該当要素

 次に、福利厚生費と考えられる点と給与には当たらないという点について審判所が判断している要素を以下のとおり3つ拾ってみました。

 ①一定期間(約3年)を超える勤務の後に従来からの慣例に従って帰国を認めた
  ものであること
 ②報償的性格をもつものではないこと 
 ③航空券の現物交付の方法という受給者に換価の余地を与えないものであること

  福利厚生費というのは、「会社が勤労意欲や能率の向上などの効果を期待して提供する給与以外の援助やサービスに係る費用」などと言われます。
 つまり、「会社が従業員等に対して何かしらの経済的な利益を提供する」という給与と同じ性質の費用です。

 それにもかかわらず、福利厚生費とされる場合には給与課税されない理由としては、勤労意欲や能率の向上などの効果といった業務遂行との関連性が認めらること、従業員等が受ける経済的な利益が少額であり全従業員に概ね一律に供与される性質であること、が挙げられます。

 今回の審判所が示した判断要素を見てみると、①については「従業員に概ね一律に供与されるもの」という点に近いことを言っていますが、②③について福利厚生費的要素というより「給与には該当しない」という点をいっているため、こちらも残念ながら福利厚生費の目安を抽出することは難しそうです。


 今回の帰国費用について、感覚としては業務に従事していない期間分については一部給与課税と考える方が自然に思えるのですが、業務と福利厚生の要素を併せることによって、その帰国費用の性質を曖昧にしてうまく給与課税を逃れることができているように見えます。

 実際審判所が示した判断理由も、積極的にこの旅費の性質が「交通費」「福利厚生費」の性質があるということをいうよりも、「給与には当たらないよな・・」という方向性が強いですから、こうした”ごちゃ混ぜ作戦”は有効なのかもしれません笑

 最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?