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[第2回実作]雷の道
「ねえ、すごい! ひかってるよ!」
蒸し暑い夜、小学生最後の夏休みを満喫している息子の孝太に窓際まで連れてこられ、窓外の光景を目の当たりにした俊一は圧倒された。
団地の八階から見下ろす街並の上、真っ暗な夜空を背景に、巨大な積乱雲が居座っていた。濃い灰色、薄い灰色を幾重にも塗りこめたようなその威容は、神か何かが荒い手つきでこね上げた荘厳なオブジェのようにも見えた。その内側で、音もなく閃光が不規則
[第1回梗概]返り点を打つ
古文漢文が大好きな高校生・神崎光男は、タイムスリップものの映画を見たあと、カレンダーを眺めていた。
(タイムスリップって、カレンダーに返り点を打つみたいなもんだよなあ)
レ点を打てば明後日が明日より先にくるし、一二点を使えば幾日かをまとめて移動できるわけだ。
翌日が苦手な数学の小テストだったので、光男はたわむれに翌々日から月末までを一二点で囲って眠りについた。つまりテスト日を月末にとばした