ジャンル融合の音楽化学反応
Cats & Dogs / KID FRESINO(feat.カネコアヤノ)
ついこの間、ゆるふわギャング&踊ってばかりの国という音楽ジャンルを跨いだはぐれ者同士による共作single『no.9』が発表された。聴くや否やHIPHOPとフォークの融合はかくも美しいものだったのか、と目から鱗だった(この曲についても後に触れる)。そこでふと思い出したのがこの曲、“Cats & Dogs”である。
はっきり言ってしまうと、僕はあまりHIPHOPやラップが好きじゃない。正直聴いていて退屈してしまうし、何を言っているのかよく分からない。なんだかガラの悪いあんちゃん達がお金と違法薬物を自慢しているなあ、という印象である。ただ、諍いが起こったときに暴力で解決するのではなく、いかに知的に狡猾に韻を踏みながらグルーヴにピタリと当てはめつつ相手をdisれるかを競う、そのカルチャーのオリジンはとてもおもしろいと思う。
そんな僕が、しっかりラッパーがラップしている“君の街まで/ゆるふわギャング&踊ってばかりの国”を聴いて、大いに感動してしまった。ゾッコンである。「もっと音楽化学反応を」という欲求に駆られるまま、認識はしていたがちゃんと聴いていなかったCats & Dogsに手を伸ばした。
重低音から始まるややサイケデリックなイントロ。KID FRESINOによる語りのような心地いいラップが耳に流れてくる。彼のリリックと歌い方を聴いて思った、ラップってかっけえ。こんなに上手に、切ない街並みや一瞬の日々の景色を韻を踏みながら切り取ることができるなんて。彼のいう「ネガティブだがBADではない」リリックは、表現方法こそちがうものの根っこのところでカネコアヤノの作詞に似たものを感じる。機械的な早打ちハイハットがフレシノのラップにマッチしながら静かな盛り上がりをみせ、間髪入れずにカネコアヤノのアコースティックパートがサビを務める。それは圧巻であった。普段カネコアヤノを聴きすぎているせいかもしれないが、高速ハイハットの緊張からの解放と共に彼女の力強く寄り添ってくれるような歌声を聴くと心から安心し、感動してしまった。フレシノとは対照的にややスローテンポでアコギと共に優しく歌う様子は、ゆるぎない彼女の存在価値を証明していた。
この曲の素晴らしいところは、いい意味で「お互いが一歩も譲っていない」ところである。ラップとフォークという音楽的にやや離れた場所で才能をこれでもかというくらい発揮している二人の若きミュージシャンが、それぞれのやり方を一ミリも曲げることなく思いっきり楽曲にぶつけて、それなのに全体として刺激に満ちつつも調和のとれた音楽が出来上がっているのだ。
先にも述べたが、畑の違う二人が好きなようにやってここまでの音楽的到達を果たしたのは、「都会での心情や情景を切り取る巧みさ」という共通の才能があるからだと僕は思う。
君の街まで / ゆるふわギャング&踊ってばかりの国
僕のラップに対する抵抗を大きく減らしてくれた楽曲、“君の街まで”。華奢な身体にタトゥーを入れまくったアーティスト同士のコラボとは思えない、繊細で救済的な音楽である。
single『no.9』に収録されている3曲の中ではやや踊ってばかりの国のカラーが前に出た楽曲ではあるが、決してゆるふわギャングに妥協を要してはいない。イントロから思いっきり「ザ・踊ってばかり」みたいな音色のギターが優雅に聴こえてくるのだが、その若干後ろノリなサイケロックの舞台で、ゆるふわギャングの二人はその波を楽しむかのように力を抜いてバースをかます。ゆるふわの前のめりなラップに時々下津が添えるあの救いのような声はもう本当に気持ちが良くてたまらない。
”Cats & Dogs”、”君の街まで”。どちらも離れたジャンルのずば抜けた才能同士が呼応し合い、その才能を惜しみなく発揮しながらも調和のとれた美しい音楽化学反応を起こしている楽曲だ。今後も邦楽史においてどんな化学反応が起こるのか、目が離せない。
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