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6/23 『ブラックロッド[全]』を読んだ

『ブラックロッド』という作品は、『ブギーポップ』と肩を並べる電撃文庫初期の傑作シリーズで、めちゃんこ面白い作品だという噂は往々にして聞いていたが、手にする機会は今までなく、ぼんやりと歯噛みしていた。それがこのたび、シリーズが一つにまとめられて復刊するという話を聞き、一丁クラウドファンディングに参加して黒金に光るこの逸物を手中に収めることに成功した。
作品時系列的にはもちろんこちらが先だが、都市の描写や全体の雰囲気などは『ニンジャスレイヤー』を思わせる。魔術に呪術、そして仏教世界を都市の中にギチギチに詰め込み、煮詰めて煮詰めて、パンクするくらい詰めて、最後はしっかりパンクした。
タイトルがブラックロッドなのだからブラックロッドと呼ばれる者が主人公で活躍する話だと思ってたが、そうではなかった。描かれるのは〈ケイオス・ヘキサ〉という都市そのもの、そしてそこに生きる人々および人以外、の、生と死。そこには〈ケイオス・ヘキサ〉自体も含まれる。ブラックロッドは最後なんか完全にやられ役の様相で、せいぜいスレイマンに便利に使われるロッドぐらいしか残らなかった。或いはそれで充分ということなのか。
名もなきモブも名のあるキャラクターも、等しく容赦なしに死んだり殺したりするので刺激が強い。特にビリーとナオミの顛末なんかは、マジか……と思って一旦冒頭から読み返したりしていた。人と魔物、交わり得ぬ二人が交わり、順当に相応の結末を迎えたにすぎない、といえばそれまでだけど。奇跡は起きず……いや、奇跡も魔法も、あり過ぎてすっかり普通になっちゃったからこそ、普通に起きることは普通に起きる。あくまで結果的に、総体的に見ればだけど、〈ケイオス・ヘキサ〉に生きる者達は、なんだかんだ自分たちのやりたいことをやりたいようにやっている。
シリーズを通して登場し、活躍するのはブラックロッドよりもヴァージニアなんだけど、その扱いは何かこう……強い情を感じる気がするな。気のせいであればいいが。なんだか、昨今でいうところの「メスガキ」の属性を完膚なきまでに備え、本文中でも「メスガキ」って呼ばれてて、すわここがこのミームの発祥地かと疑ってしまった。さすがに違うはず。
最後は、多くの犠牲を贄に生まれた神――のような何かに、人々はみな背を向け、凝縮された渾沌の都市から眩き不毛の荒野へ歩む。その足を支えるのは、大した意味もないふざけた占い菓子。何を救うわけでも、逆に滅ぼすこともなく、渾沌はめぐる。面白かった。

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