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10/28 『機忍兵零牙』を読んだ

面白かった。

初めて読む作家。ただ作者のアニメのお仕事の方で、お名前には聞き覚えがあった。『ノワール』は何話か観たし、そのOPテーマは今もiPodでよく聴いている。
実を言えば本命は別というか、ほんとは『機龍警察』を買おうとしたのだが、すぐ隣にこの『機忍兵零牙』があり、名前もなんだか似てるし、なんか先読んどいたほうがいいのかなあと思って一緒に買ったのだった。しかして読んでみれば、どうも別に『機龍警察』と繋がったお話ではないっぽい(考えられるとしたら「本当の世界」がそっちだったということは……いやまあ、ないかな? まだ読んでないのでわからないけど)。
次元を股にかけて悪事を働く闇組織・無限王朝に対抗するは光の忍び、光牙。忍者が――作中ではあくまで「忍び」だけども――出てくるのに、舞台となる世界を和とも洋ともつかない、どこともしれぬあやふやな世界にしているのは、光牙と無限王朝は永劫に戦い続けるさだめにあり、これはその中のほんの一幕にすぎないということか。うろんな世界観でSFめいた忍法を用いる、忍び装束に身を包んだ異能の超常者たちが命を削り合うあたり、ニンジャスレイヤーと通ずるところがある。というか、ニンジャスレイヤー以外にもこんなトンデモニンジャアクション小説があったんだな、という気持ち。まあ作品が刊行されたのはツイッターでニンジャスレイヤーが連載され始めるより前だし、ルーツになっているのは山田風太郎の忍法帖ものとかなのだろうけど……そちらはまだあまり触れてないので、やっぱり思い起こすのはこちらなのだった。「零牙参上」とか登場するときに必ずアイサツするところとか……それともこれも実は山田風太郎がルーツだったりするのか?
光牙と骸魔忍群の戦いは、どれもアクションが豊富で飽きさせず楽しかった。骸魔忍群で好きなのは十六夜毬緒かな……ひとりだけやけに面白い格好してない? 素肌にストールぐるぐる巻きしてるの?
あと、黒薙怜門。仮面を被った謎の強敵が実はかつての友だった……という鉄板な展開からの、実の実は目論見を見透かされて敵にいいように利用されていただけだった、とさらに一枚展開を重ね着させられていたのはよかった。
そしてまた黒薙怜門こと業牙に対する零牙の思いの強さな。最終決戦でも思い起こしていたし。この男、タイトルに名を冠されてるからには一応今作の主人公の筈だが、いろいろと好き放題しすぎてるというか、真名姫や鷹千代との心の交流などは仲間に任せて、請け負った任務と己の執着に突っ走っていやがる。それでいてちゃんと務めを果たしてもいるあたりがにくい。
不思議な設定だと思うのが、「本当の世界」という設定だ。光牙者たちは実はかりそめの存在で、自分たちの由来は「本当の世界」というところにあり、そこで平和と安息に満ちた普通の人生を送っている……という共同幻想を、永劫に続く戦いの日々を送るための心の拠り所としているという。その「記憶」を持つのは光牙者の中でも一握りで、その者らの語る記憶を聞くことで他の光牙者はひとときの安寧を得る。次元から次元を飛び渡る超常の存在にしてはあまりにも儚くささやかな人間味。しかしそのほんのささやかな温かみが、光牙と骸魔忍群とを分けているのかもしれない。実際、光牙者たち揃いも揃ってめちゃめちゃ人間ができてるからな。

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