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5/22 『戦物語』を読んだ

また遭う日、もう来たわ。さすがに今までよりやや期間は空いたものの。もう語る物語も無いかー寂しくなっちゃうななんて言ってたら、まだまだ全然語るじゃん阿良々木くん……まあ、語られた以上は、耳を傾けますが。
ただ今回は新たな怪異に出遭うこともなく、そして蛇足や語り残しのような何かを終わらせる物語でもなく、むしろ新たな始まり方を模索する物語ではあった。いくらでも終われるけど、同じくらいいくらでも始められるんだぞというつよい意志を感じる(今作だけに、石だけに、と言ってもよかったが、あいにく誤変換で出るまで思いつかなかった)。
よって、新たに物語を始めるにあたって新たな時代における新たな関係性のあり方を考えるという意味で、冒頭……序盤……中、いやもはやほぼ全編にわたって、姓や呼び方にまつわる問題を議論していくことはよいのだが、なんか「それが許される時代ではもうない」みたいな言葉で諸々をざっ括って洗い流していこうというような勢いには、ちょっとノれなかった。作中でも度々言われてはいたが、許されないというのならシリーズ初期が刊行されていた時代においても、阿良々木くんの行状は許されない部分が多分にあった筈だぞ……それを物語だから、フィクションだから、怪異譚だから等々の様々な手練手管でもってそれが許されていた、或いは許されていた”風”を装っていた……許さぬという風潮の目をすり抜けていた、或いはすり抜けていた”風”を装っていた……のではなかったか。そこに痺れ、憧れていたのではなかったか。それを今、「それが許される時代ではもうない」という理由だけで押し通すのは、翻って昔に失礼ではないか。せめて、「時代」に加えてもう一押し、すり抜けていた”風”を押し留める何かもう一つのエクスキューズが欲しかった。もしかしたらそれが、阿良々木くんが大人に、おまわりさんになったということだったのかもしれないが。
妻の呼び方にしても、「奥さんは駄目なのに奥方はいいように思える不思議」とか言われても、奥さんが駄目な理由が「時代」以外に明示されてないのであんまり同意しかねる。いや奥さんで良くない?って、アップデートされてない俺の頭は思ってしまう。そのアップデートファイルが、どこにどう貼り付いて更新されるのかよくわからないままでは、更新してシャットダウンするのを躊躇ってしまう。
それでも忍野忍という名前を奪われた元吸血鬼との今後の関係性を模索するにあたって、そして阿良々木ひたぎという新たな名前を得た元ツンデレ娘との今後の関係性を構築するにあたって、避けては通れない議論だったことは理解する。大事な話だった。そして阿良々木くんが散々に悩んで迷った挙句へのひたぎの言葉は、流石というものだろう。それは『結物語』のやり直し、あるいは賢者の贈り物返し。その言葉を待っていたというのを、ど直球で放ってくれた。ブラックジャックにはお前がなるのか。
最後には、またぞろ何だか『忘却探偵』シリーズと繋がりを匂わせるようなことを言って去っていったわけだが……たとえ次巻の予定タイトルが『接物語』でいよいよ合流する気配を色濃く滲ませてきたいたとしても俺はまだ、あくまでよく似た関係性のよく似た名前の人たちがいるだけのパラレルである説を推していくぜ。なんならメタ的視点から、まだまだシリーズ進行中の『忘却探偵』シリーズと話が繋がってくるような描写を組み込んでおくことで、『物語』シリーズもまだまだ終わらせないようにしているという西尾維新の目論見なのだと邪推してもいい。……いやまあ、ここまで来たらもう、別に合流してしまってもいいのだけれど。

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