2/2 『ヤクザと家族 The Family』を観た

面白かった。
『日本で一番悪い奴ら』ぶりに綾野剛のヤクザ映画が観れるのだと思ってあまり事前情報も入れずに観てしまった。まああれは綾野剛ヤクザではなかったが。しかし目論みは外れた。ヤクザ映画ではなく、家族映画だったからだ。そういえばタイトルの英語部分も「The Family」であって「The Yakuza」ではない。なるほどタイトルはちゃんと見とくべきだ。
しかしそれで満足しなかったかと言えばそんなことは全くない。確かに期待してたようなヤクザ同士のエグくてヤバい抗争シーンみたいなのは無きに等しく、あってもある意味ありきたりな、わりと普通の争いしかない。観たかったものが観れたわけではない。代わりに一人のごくありふれたヤクザの、家族が欲しいというごくありふれた願いと、それが時代と世の流れに削られ消え去っていく悲痛な様が観られた。
刑期を満了して戻ってきた組が、もはやあの頃の面影などなくすっかり衰えてるであろうことは予想できたが、当時組長のそばにいた古株の幹部連中など軒並みくたばってるんだろうなと思ったら、むしろその幹部連中しか残っていないというのがまず悲痛だ。実にリアル……いやヤクザのリアルなんて知らないんだけども。親も子も老いて、食っていくには義理も人情も矜持も切り売りしていくしかなく、ただただ生き延びることに精一杯になってしまう悲痛さ。そこにやがて老いていく自分の姿も想像してしまって、ヤクザという自分とはかけ離れた世界の話なのに、ひどく身につまされる。まったく、かけ離れた世界を観に来たというのに、つくづく思ってたのと違うものを観ている。
悲痛といえば、市原隼人の演技もよかったな。あんな弱っちい市原隼人、初めて観た。だいぶ印象が変わってしまったな。あんな役もできるなんて。最後の、何もかも失って、憎しみというよりは他にもう何も残ってないからこそのすがり付くように兄貴を刺しに行ったところなんかも、とてもよかった。
組長の末期の弱々しさと、ラストの子ども二人が邂逅するシーンでは涙が溢れてしまった。特にラストの方は、もう。無理無理、あんなん。あそこであの二人が出会ってしまうことは、ともすると同じ悲劇を繰り返してしまいかねず、家族という逃れがたい呪縛が再度二人の未来に施されてしまうのではという不安も呼び起こすのだが、それ以上に、この家族というどうしたって離れられないよすがを少しでも善いものに繋げていって欲しいという希望を見いだしてしまう。希望だと信じたくなってしまう。それこそが呪いなのだとわかりつつも。時の流れは無慈悲で容赦がなく、他に行き場がなく外道を生きるしかなかった男が抱いた小さな願いなどはまったく正当に押し流してしまうけれど、そればかりでなく、他に選択肢がないというどうしようもなさやそこに付いて回る悪しきものも流し去って行ってくれればなと願うばかりである。

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