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10/4 『medium 霊媒探偵城塚翡翠』を読んだ

しばらく前に買って積んでるうちにテレビドラマ化されて、放送が始まったときに1話だけちょっと観たが、やっぱり原作をネタバレなしで読みたいなと思ってドラマ視聴はそこでやめておいた。ただ……テレビドラマには放映期間中は番宣CMというものがございまして、それはどうしても目に入らざるを得ない。テレビは観るので。まあそれもほんの15秒かそこらだしCMで大胆なネタバレなどはないだろうと高を括っていたのだが、しばらく話数が進んでったら、なんか……1話でちょっと観たときと城塚翡翠のキャラがちょっと、変わってる、ような……ほんのわずかな時間のことだしわからんけども……それに1話でワトソン役を務めていた香月史郎の姿が、後半の番宣CMに見られないのとか、もしかして……ネタバレをくらっているのでは? それが何なのかまでは確信はないが、おそらく……いや! 深くは考えないでおこう……とまあ、予備知識完全にまっさらなしでとは言い難いものの、ぎりぎり何も知らぬ体で読んでいくことはできた。
もっとも本当に何も知らずに読んでいたとしても、香月の怪しさというのは十分に感じ取れていたであろう。節々の描写や口ぶりに何度、お前……犯人だろ! と思ったことか。とはいえやはり確信にいたるものを掴むことはないまま、そのまま読み進めていく。
翡翠が霊視するのは、事件の犯人、あるいはトリック、あるいはその事件を一つのエピソードとして特筆せしめる特徴的な要素……それを基に香月が推理を組み立てていく。それはまさに推理小説の書き方なのではないか……推理小説を書いたことなどないのでわからないが。だがそれならば、推理作家である香月が翡翠のワトソン役を務められるのも納得だ。翡翠もまた、自分の能力をうまく推理に活用できる香月を通して、世間に馴染み、友人などを増やすこともできた……翡翠が死者や死後の世界とこの世との間を媒介する存在なら、香月もまた翡翠と世の中との間を媒介する存在なのだ……
……という感じで感想をまとめようかなとか思ってたところで明かされるほんとうの真実。く~っ……まあ、そうかあ! 香月に関しては、やはり……と思ったし、翡翠に関してだって、もしかしてと思いながらまさかと思った矢先での、やっぱりかい、であった。最初は翡翠の霊媒のことも疑っていた。あまりに曖昧すぎるし、何か感じ取っているとしても、直感的に類推したことを霊視と勘違いしてるんじゃないかとか、もしくは普通に論理的に推理してるだけじゃないかとか考えてはいた。しかし藤間菜月の降霊あたりからすっかり信じ込んでしまっていた(奇しくも香月が確信するタイミングと一緒であり、そして一緒であるということは、奇しくもでも何でもなく、作者の手のひらの上であった)。魂が空間に貼りつくなどの論理も、半信半疑なれど半信の方に首ががっつり向いていた。作中でも言及されてたけど、この手の「正確ではないがあからさまに間違いだとも否定できない、する手立てもない論理」に対して人は弱い。そんな理論を世間一般では妄想とか陰謀論とか呼ぶのだけど、一度信じてしまうとその呼称はびっくりするほど頭の中で存在感を消す。
しかし真・翡翠、口悪い。エピローグじゃそれも演技であった可能性もあるとは言うが、それにしたって……それにしては、それこそ次元の壁を越えて読者の我々にまで突き刺さってきそうな棘の鋭さ。どこまでが演技だったんですかどころか、どこまでが誰の本音だったんですか。死者の世界なぞない、あるのは現実の冷たい論理のみという話をしてるときにミステリ論を語られると混乱しますよ。とはいえ確かに、読み返してみれば手がかりはすべて描写されていたので、ぐうの音も出ない。いや、献本のシステムやら制服のスカーフの仕組みやらは非作家かつ制服のない高校に通う男子生徒だった俺にわかりようもないので、ぐうの音くらいは出したいけど。
まあまあ、続刊のタイトルに「霊媒探偵」の枕が抜けていたことからも感づきようはあったよな……いや、多少は感づいていたよ確か、多分。そんな感じでドラマのCMによるネタバレ疑惑も払拭、結果的にはちゃんと面白さを損なうことなく楽しめたのでよかった。次巻でがらっと趣が変わるだろう翡翠の活躍も楽しみ。ところで、解説文によれば本作にはオマージュしている作品が二作あるらしい。それが何なのかはちょっとわからなかったが、オマージュというならおそらくその二作に加えてもう一作、あるよねえ。死が見える少女と、彼女の力を使って壮大な計画を立てる「先生」。そして言わずもがな最終話のタイトル。まあ大したことでもないけど、同好の士として、今後も目ざとく見つけては不気味に微笑んでいきたい。

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