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3/15 『竜殺しのブリュンヒルド』を読んだ

映画のポスターみたいな表紙イラストおよびデザインに惹かれて買った。やはり電撃文庫の白地は良い。
竜に育てられた娘を主人公に、竜を殺した人間への復讐譚という話の性質もあってか、語り口の視点がどこか一拍置いた、やや突き放した距離感を覚えた。おなじ電撃文庫でいうなら『キノの旅』のような感じに似ている。最初に主人公が人間の街に行ったときも3日で十分つってたし。
竜殺しの娘の物語に関しては、文句のつけようもない。つけたいが、つけようもない。父が復讐を望まないことも承知しつつ、人間が殺すべき怨敵ばかりではないことも理解して、なお己の復讐を遂げんとし、遂げてしまったのなら。文句をつけるとしたら人間側の方で、もうちょっとどうにか、やってやれたんじゃねえか。
キャラクターと物語に関してはそうなんだが、いっぽう世界に関してはかなり、聞きたいことが山積みだった。エデンというのはつまるところ何だったのか、とか。そこに植生する自然はまさに楽園のごとく、しかし強大な竜に守護され、竜を殺せばそれらも灰燼に帰す。ただし灰燼は灰燼として利用することもできる。正直、あざと過ぎて誘ってるんじゃないかとしか思えぬ島だ。しかも世界中に点在してるとか。トレジャースポットじゃないか。本当は煽ってるんじゃないのか、人類の発展を。ちらっと語られる世界創世の神話に関しても、実際にバルムンクが存在する以上は、真実なのではないだろうか。とすれば、神から恵みを略取しエデンという自らの領域に封じ込めてる竜は正しく邪竜なのでは……本作の物語には関係ない話かもしれないけども。その上で、竜にあのような宗教観というか死生観が備わっているところもやや不思議だ。なんか秘密か裏か誤魔化しがある気がしてならないが……あんまり考えても詮無きことか。
最期の二者のやりとりはよかった。もはや懊悩することのない場所で、愛と悲しみを交わすだけのやりとり。とくに、聖性を保ったまま死んだ竜が、それ故に娘と共に地獄に堕ちれないというのが。哀れに思いつつも、ちょっとだけ「やりぃ」とかも思ったり。
そんな感じで面白かった。が、これ、こんなにバチンと終わったのに、続編が出ているらしい。続編というか、第二部と言っていたが。まさか、ここからどう新たな物語が紡がれるというのか……興味深い。

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