見出し画像

4/25 『木曽川 哀しみの殺人連鎖』を読んだ

『豊久の女』に続き木曽ものが続いている。いや、狙ったわけではないけど。購入した時期も違うし。初めて読む作家だが、お名前はなんとなく存じ上げていた。中学校の学級文庫に作品が確かあって、ちょっと数ページ開いてみた記憶がある。ミステリはミステリでもあまり馴染みのないタイプの、テレビドラマ感のあるタイトルだがたまにはこういうのもと思って手にとってみた。実際テレビドラマになっているシリーズであるらしい。
秘書の友人が高級時計盗難事件に巻き込まれ、その捜査をしている内に時計店の社員が木曽で殺されているのが見つかり、雑誌記事の取材旅行も兼ねて木曽へ行くと泊まった旅館の従業員がふと気になり、その人の経歴を辿っていくと盗難事件と、さらに過去に起こった事件とのつながりが見えてくる……また一方で不意に事務所に入ってきた徘徊老人に対応していると、そこから友人女性の抱えていた出自の謎の手がかりを得るなど、何だかどこが事件の焦点なのか、そも追うべき事件はどれなのかがよくわからなくなっていく。ばらばらな出来事がすべて一つの事件と謎に収束していくのかと思いきや、途中で挟まれた知り合いの作家の妻子が行方不明になった事件などは特にどことも繋がらずに解決したりするし、強引でご都合主義的な展開のようでもあればとりとめもなく散文的でさえある……旅行作家が探偵役の作品だけあって、旅のように話の筋がふらふらとしている。いや実際、作中でも主人公に対して「思いつきで行動しすぎ」みたいなこと言われてるし。それでいてしかし最後には何だかんだまとまっていくし、散りばめられた謎も残さず解決されて満足感はある、何かそんなところも旅行っぽい。
木曽路を旅するシーンは、自分もよく知る場所を訪れて、描写などからあの辺かななど思い浮かべられるのが楽しい。事件さえなかったらもっと堪能してもらえただろうに。ただ旅館で目を留めた件の女性のその理由が、木曽が気に入って東京から移住してきて住み込みで働いてるということだけど、それにしては木曽の田舎臭さに染まりきっていない、どこか垢抜け過ぎている、これは何かあるぞというのはなんだこのヤロウとちょっと思った。何回も言いよるし。結果として違和感は正解だったのも悔しい。
探偵である茶屋次郎に関してだが、多くは語らず、淡々と事に当たっているようで、前述のように突発的な行動力があり、さらに好奇心に任せてだいぶずけずけと他人のことを嗅ぎまわる奇特さも兼ね備えている。これまでに発表してきた記事や作品がよく読まれているようで、ずけずけ訊かれた人も結構素直に答えてしまっている。今までに類を見ないタイプ……と言うにはまだよく知れていないのでもう少し検討が必要だが、なかなか新鮮な感触だった。ちょうどこれを読んでる間にドラマの『十角館の殺人』を観たりもしていたので、同じミステリでもこうも違うかと特に思ったかも。密室殺人トリックも時刻表トリックもない、ひたすら関係者に聞き込みして回る、これがいわゆる靴底をすり減らして足で解くミステリというやつならば、なかなかどうして悪くない。地元ミステリというジャンルも然り。面白かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?