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3/23 『SGU 警視庁特別銃装班』を読んだ

現代~近未来の日本を舞台に、治安が極度に悪化した東京で銃撃爆撃どんと来いの大都市大捕物活劇ということで、ノリとしては『シュピーゲル』シリーズに近しきものを感じるので、久々にクランチ文体が炸裂するとこ見れるかしら、と期待していたら、そこに現れたのは……『刃牙』だった。クランチ文体ではなくイタガキ文体だった。
ドキュメンタリー番組のように、物語の何年か後に事件の関係者に当時の所感を語らせたインタビュー記事、というていで書かれているのだが、銃撃戦や修羅場の最中に「証言」がちょくちょく差し挟まれる具合が、絶妙に『刃牙』のそれ。主人公の一人、吉良が犯人に銃弾をぶち込んだ直後に、その犯人の検視を行った警察官による吉良の銃撃の精確さへのコメントがぶち込まれてるところなんか、完全に板垣恵介絵で脳内再現されていた。刊行と同時に実写ドラマ化が発表されて、ビジュアルも出ていたから「なるほどこれが舘ひろしで、こっちが仲村トオルね」などと脳内映像も実写で想像できていたんだけど、この文体のおかげでちょくちょく板垣マンガでも想像されていた。
実際、冲方丁の作風とも相性が良いように思えた、このドキュメンタリータッチは。特に今作のような、プロフェッショナルな仕事に従事する者たちがそのプロフェッショナルをこれでもかってほど発揮する、プロのプロたるゆえんをこの上なく魅力的に描くところは、もとよりドキュメンタリー的であった。それがある意味でその極北ともいえる『刃牙』のテイストを取り込んで、更なる進化を遂げた感があった。やり過ぎるとギャグになっちゃいそうだが、絶妙なラインで押し留められていた。
銃とそれによる銃犯罪が蔓延した東京という、フィクションとして想像はできるがなかなか受容できない世界観設定に対して、大手銀行のシステム障害や、ユーチューバーによる扇動広報動画、過去最大級の台風襲来など、ここ数年で見聞きしたニュースと結びつけることでその抵抗を和らげてるのが上手かった。政治やら国際情勢の話よりも、より民間よりのニュースというか、身近な事件事象を盛り込んでるあたりがとくに。台風もバズり動画もシステム障害も、みんなが影響を受けていたとは言えないけど、「大勢の人が影響を受けていた」ことはみんなが知っているという、いいラインをついていた。
吉良と加成屋、二人の主人公がまた超人で。主人公ではあれど、読者の共感を誘うキャラではなく、冒頭で言われてるように、ある種の象徴のような扱われ方ではある。ガンダムで言うところのガンダム。とはいえ二人のコンビっぷりは楽しく、イメージ的にはリュウとケンだった。刃牙と言ったりガンダムと言ったり、どれなんだよという感じだが。名前もキョウ(タロウ)とリンでちょっと近いし。
小説を読んだ上で、公開されてるドラマのPVを観ると、この時点でもう小説とは違った感じになるのだなとは予感できるが、それはそれで楽しみでもある。あるいはドラマの方こそ『シュピーゲル』っぽくなりそうな感じもあるな。

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