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10/7 『ぼくらの第二次七日間戦争 グランド・フィナーレ!』を読んだ

おいおいおい……最後の最後に、めっちゃ面白かった。ここ数冊のお話は、正直なところ1冊のお話としちゃちょいと微妙だったりいまいち把握しづらかったりで、愛が無ければ楽しむのが難しいところが多かったんだけど、この最終巻、『ぼくら』シリーズ完結巻たるこの巻は、すごい楽しめた。グランド・フィナーレという仰々しいタイトルほどには大きな騒動もなく、英治の今までの経歴を考えれば日常の一コマていどだったと言えなくもないんだけど、だからこそ逆にフィナーレを飾るに相応しい、そう思えた。読み終えた後に確かに残る充足感があった。
というか冒頭から驚いたんだけど、子どもたちの台詞回しやら描写やらがここに来て、急に現代的になっていやしないか。いや現代といっても刊行は2005年なんだが、それでも前巻までより格段に「今どきの子ども」の解像度が高い。前巻との間は5か月しか空いてないのに、一体何があったんだ宗田理……。
また今巻の話も、親の経済格差が子どもたちにも伝播して、裕福な家の子は好きなものを何でも好きに買って立ち居振舞いにも余裕が表れてて、下町の子らは月の小遣いにもあえいで、仲間たちと共謀して転売ビジネスを図ったりするなど、いやぁな感じに現代的だ。しかも転売商材を手に入れる為に金持ちの子どもから融資を受けたり、金を返さなかったら金持ち子どもの雇った大人が取り立てに来て、借金返済の為に詐欺や引ったくりをやらされたりしている。闇バイトそのものだ。あまりに「今」に通じていてびっくりした。
昔と違って今の子どもたちは比べ物にならないくらい多くの「情報」に晒され大人たちとほとんど変わらなくなってしまっている、そのぶん豊かにはなったが代わりに大切なものが失われつつある……といったメッセージはこれまでにも何度も発されてきたことで、それは今巻でも変わらないのだが、その子どもたちが晒されている「情報」の例として転売やらネットーオクションやらが出てきたことで説得力が膨れ上がっている、ってことなのかな。またその転売にまつわる騒ぎもリアリティがあって、限定版商品の情報をクラスの大半が知ったから学校を休んでまで買いに行く生徒が続出して、教師たちにバレて没収されるんだけどうっかり落としてまき散らすと、みんなが我先に取り返そうとして大騒ぎになり、最終的にはこんだけ買い集めても高額で買おうとするのは一人か二人くらいだってんでゴミ同然になる……こち亀のエピソードか。
そんでここに絡んでくる英治たちの立ち位置もいい感じなんだよな。日比野や谷本の出方も含め、前作主人公とその仲間たち感がいい。願わくばこの感じをもう少し早く出してほしかったと思わなくもないが……まあ十分。新世代の子どもたちが、英治らに頼り過ぎず自分たちで半分くらいは何とかしてるところも愛らしい。やってることは転売だが。
そしてエピローグは、ひとみと純子の語らいで閉じられる。初期は純子と英治が良い仲だったことを考えると、感慨深い……羽川と戦場ヶ原の会話のような。これからも英治はひとみや「ぼくら」とともに、変わり続けていく世界と子どもたちを相手に、やり合っていくのだろう。作中時間で20年以上、現実時間じゃ25年ちょいくらいかしら。ここまで付き合ってくれて、本当に感慨深い。並走はできなかったけど、かつて追い続け、並びつき、気づけば追い越してしまったりして、今はまた、走り行く背を見送っている気分。いやあ楽しかった。まだこれからも角川つばさ文庫版などで楽しませてもらうつもりだが、ひとまず今日まで、いつも僕の心の片隅に「ぼくら」を、「ぼくら」の片隅に僕を置いくれていたことに感謝したい。面白かった。

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