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11/9 『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』を読んだ

冲方丁がオビで推薦してた(2巻の)という理由で、あまり内容もよく見ずに購入。購入してから内容を見てみれば、主人公は電索ーー人の脳に潜行し記憶や経験、そのときの感情までも追体験する技術を用いて事件を捜査する捜査官ということで、なるほど仕組みは違うが『PSYCHO-PASS 3』におけるメンタルトレースとやってることはよく似てる。冲方丁にオビコメの白羽が立つわけだ。おまけに、主人公の相棒はヒト型ロボットだというから、『BEATLESS』成分も入ってる。まさにその2作を読んだあとに読む、最直近のSF作品としては、期せずしてもってこいの運びとなった。星の巡り合せがよい。
冲方丁作品との関連をさらに言うなら、主人公が能力が高すぎて普通の人間と電索するとパートナーの脳をショートさせてしまう、そのことに罪悪感を覚えてるのに無理に平気なフリをしているというのが、『蒼穹のファフナー』の小説版における一騎にも似て、無愛想な性格ながら親しみが湧く。逆に言うと、そういう関連項目とか無く初見でエチカの態度に接してしまった読者は軽く嫌いになってしまうんじゃないだろうか。いや大丈夫か。これで結構巻き込まれ型だし。つれないこと言う割に死ぬほど押しに弱いし。
その、主人公をグイグイ押してくる相棒たるアミクスのハロルド。フルメタのアルとか、生意気なこと言うAIというのはわりといるけど、相棒相手にああもアプローチしてくる奴というのは斬新でよかった。その上で冷徹な計算機みたいな面も見せるから、ギャップが効いている。観察力が高いのも、主人を殺した犯人の僅かな特徴を見逃すまいと、初対面の人間すべてを疑ってかかっているからなんだろうな。『BEATLESS』読後の身としてはどこまでがプログラムでどこからが我々人間のそれと遜色なき「感情」なのか、この作品ではそれをどう定義しているのか……など考えてたら、作中でまさにアナログハックみたいなことをするので、なかなかスリリング。実際、脳に埋め込んだ機械で感情まで追体験できる世界で、機械が生み出す思考や感情をいつまでただのプログラムと呼んでいられるか、興味深い。おまけに新型人工知能を搭載したRFモデルは、危機感からくる心臓の鼓動の高まりや鳥肌まで再現してるっぽいし、アミクス自身がおのれの「こころ」をどう理解しているのか。人間に対する敬愛規律を「信仰心のようなもの」と定義するのとか、この辺もっと詳しく見てみたい。
作品のメインガジェットたるユア・フォルマもよく世界に馴染んでいる。油断するとすぐ広告出てきちゃうというのはクソ仕様だが。エチカもインターポールの捜査官だったら課金して広告消しなさいよ。仕事で使うんだから。いや、ひょっとしてエチカは課金渋ってたけど、実は他の同僚たちは普通に課金してたんじゃないのか? なまじ自前の脳が処理できちゃうから無課金版で間に合ってた……間に合わせられてたんじゃないか。他の捜査官たちは広告消してるからウイルスの出所にも気づけず、捜査が難航していたことの説明もつく……おいおいなんか繋がってきたぞ。
マトイという人工イマジナリーフレンドみたいな機能も面白かった。今後もいろんな電脳技術や、それを用いた電子犯罪が出てきてくれると面白いだろう。

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