9/9 『ぼくらの卒業旅行』を読んだ

面白かった。
序盤、中川冴子がその命を燃やし尽くし、旅立ってしまう。昔に読んでた記憶では、この中川冴子というキャラクターは、あくまでゲスト的な存在としてほんの少しぼくらの中に登場してたものだと思っていたけど、今こうして読み返してみると全然そんなことはなく、ときには英治たちのいたずら計画に参画したりもして、「ぼくら」の一員として確かに生き抜いたとても重要なキャラだった。
そして時は過ぎゆき、英治たちは受験に励み、大学に受かったり落ちたりして卒業。中学に比べるととてもあっけない。まあ高校編は学内のことよりも学外や海外の冒険なども多かったし、一つの高校にみんないないし、そんなもんか。大学にもあっさり落ちる英治。そりゃあんだけやってりゃな……月1冊ずつ読んでるとわかる。うん、妥当でしかない。
そうしたあれこれはいったん置いといての卒業旅行(グランド・ツアー)。高校生としての最後の思い出作りということではあるが、その行動日程はアジア圏を周って、第二次大戦中の日本軍の侵略と虐殺の歴史を追うというもの。なんともまあ、立派だ。こうしてみるとこの子たちって、ものすごく「大人」に希望を、理想を要求してるんだよな。先公とかワルとかを退治するのも、理想の「大人」像を汚す奴らを粛清してるわけで。そうして自分たちがよい「大人」になるための努力も欠かさない。ただそんな彼らが……とりわけ英治と相原がこんなによき「大人」を求めるわりには、そのモデルとなる「大人」がハッキリと明示されないというのがちょっと不思議な点ではある。瀬川さんや矢場さんなどは確かに尊敬されているだろうが、それでも原点ではないし。作者の世の中と子どもたちに対する希望を体現させている、と言ったらそれはそうなのかもしれないが。でも、そこをぼかし、物語的にはあくまで心の裡に燃える正義感と仲間たちとの絆によって、世にはびこる悪の大人たちを蹴散らしていく姿が魅力的であることは確か。既にぼくらの年齢を軽く跳び越し、何なら粛清されるべき大人になってしまっているかもしれない現在においてもそれは変わらない。高校を卒業し、いよいよ「大人」への階段を上がっていく英治たちの姿を追うのは、また新たな感慨を湧き起こしてくれるだろうことを期待し、次巻を楽しみに待つ。

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