見出し画像

5/15 『テトラド1 統計外暗数犯罪』を読んだ

吉上先生の作品はそれなりに読んできたつもりだが、どうも文章のリズムがあんまり合わねえなあ……ということを認めなければならなくなってきた。いよいよというか、いまさらというか。俺が読点をつけたいところでそのまま進んでしまって、文意の把握が追いつかないことがままあった。特に事件現場の描写などは、土地鑑もないしなかなか大変。
どうにか慣れられたらなあ……と思う。なんせ、他の要素はほぼストライクゾーンなのだから。近未来を舞台にしたややSFサスペンス・ミステリで、人の心情を読み取ることに長けた小柄な男と荒事に長けた大柄な男のコンビとなると、『PSYCHO-PASS 3』とも通ずる。しかし今作では主人公らが追う犯罪者はサイコパス犯罪者ともまた違った、他者に過剰に共感しまた共感させる「テトラド」という新たなかたちを提示している。情動に支配されやすい群衆などといったものは、『PSYCHO-PASS』においては冷徹な知能犯たちに容易く操作される便利な道具的存在としてもっぱら描かれてきたが、今作においてはその犯人もまた「祭り」に参加して、諸共に混沌へ突っ込んでいく感じか。世相を反映させてより現代的なかたちに描き直した『PSYCHO-PASS』、その精神的姉妹作あるいは後継作、といった趣き。そんでまた、テトラドを追う主人公の一人は前世紀において「サイコパス」と定義される性質の持ち主であるというのが……なんだその、前作で敵だった存在が今作では味方として登場みたいな、軽い盛り上がりを覚える。いや実際には意味も定義も違うだろうし、言葉遊び程度のものでしかないが。
主人公らの属する統計外暗数犯罪調整課というのが、具体的に何なのかをしっかり理解する前に、大規模放火殺人というセンセーショナルな表に出る事件が起こってしまったので、次巻ではその辺などもうちょっと掘り下げてほしいものだ。隅田川を囲う大堤防とか、対テトラド用の物騒なのに繊細な装備とか、小出しにされるSF感も好ましい。文体にも頑張って慣れよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?