4/29 『掟上今日子の鑑札票』を読んだ

面白かった。が、なかなか難しい。

掟上今日子の過去に迫り、その驚愕の秘密が明かされるも、しかし最終的には「人違いですよ」で収められてしまう……だがそれを否定できるものはいない。今日子さんには今日しかないから。逆に言えば、今日このときだけ今日子さんが今日子さんでいれば、それはもう今日子さんなのだ。今日子さんの昨日が、あるいは明日が今日子さんでないとしても、今日さえ今日子さんならば、それで困る人はいない。せいぜい常連でお世話になっている稀有な依頼人がちょっと疑心をもたげる程度で、それさえさしたる問題はない。最速が保証されるならば。

したがって以前から何度となく匂わされてきた、「掟上今日子とは羽川翼なのか」という問題だが、今巻において示された回答は「少なくとも掟上今日子にとってそれは問題ではない」といったところだろうか。いちおう、「世の中には自分のそっくりさんが3人いる」という話から、今日子さんとホワイト・ホースはそのうちの2人であり羽川翼は残った1人(「自分」と「そっくりさん×3」だから正確にはこの世によく似た人は4人いる、ということか?であれば残った2人のうちの1人か)(いや待て、その残った2人が羽川とブラック羽川、というカウントになる可能性もあるか?)(いやもうわからんわ)、というような回答を導き出せないこともないが、明言はせず。個人的には、そうやって匂わすだけ匂わせて接続可能だけど接続しなくても完成できるパズルのピースに留めておくってオチじゃないかと思うが。いーちゃんの本名のように。

また匂わすと言えば、今回はその問題とも別に、天才の現実と創作に関する葛藤といったものの話も差し込まれていて、これが西尾維新自身の葛藤なのではないかと匂わせているシーンもあった。こっちが勝手に嗅ぎ取っているだけかもだが。正直、序盤でスナイパーが出てきたり、地雷や戦車が出てきても「今回はなかなかインパクトがあるなァ」と思ったぐらいで戦争をフィクションに持ち込むことの如何なんて気にも留めなかったから、そういう方向の話が入ってきてびっくりした。耳を痛めようにもその準備もできておらず、なかなかマジには受け止められない感じ。しかし戦争ネタでなくとも、作者は直近でも妊婦を題材にした作品を書いてたし、そういった「創作でも好き勝手していいものとそうでないものがあるのか」ってことは考えていたのかなあ、と嗅ぎ取りたくなる。もちろん、ちゃんと問題提起だけでなくそれに対する回答、あるいは答えんとする姿勢の提示もちゃんとしてくれており、いち読者としては安心して身をゆだねたいところだけど、そういった問題とその回答を作者に言わせちゃだめよ、って気もする。そこに問題意識を感じるのも回答姿勢を見せるのも、読者の仕事じゃないかなと。

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