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2/15 『キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘』を読んだ

戯言シリーズ17年ぶりの最新作にして正当続編、にして総集編のような話だった。『クビキリサイクル』から『ネコソギラジカル』までの流れをギュッと濃縮した感じ……いや、『クビキリサイクル』で主人公がいきなり車に轢かれたりはしなかったが。それはだいぶ終盤だし轢かれたのは主人公でもなかったが。轢いた人は同じだった。
事前にお出しされていたイラストやPVで既に青色サヴァンと戯言遣いの娘は好きになっていたが、本文での語り口も小気味よくて楽しい。まあ、何故かといえば阿良々木暦と瞳島眉美をほどよくブレンドしたような性格だからだけど……それでは色物ヴァンプと星屑探しの娘になってしまうが、哀川潤に対するリアクションを見れば、まぎれもなくこの子は戯言遣いの娘なのだとわかる。
今回「パパの戯言シリーズ」が各章冒頭に掲げられてたけれど、ということは旧シリーズにおける各章冒頭のアレも、戯言遣い以外の誰かの戯言シリーズだったのかしら。あるいは、戯言遣いが自己を形成するにあたって蒐集した戯言の数々だったのか。旧シリーズも読み返したくなってきたな。
旧シリーズ中はついぞ明かされなかった玖渚機関のその全貌も、全貌ではないが中枢が明らかになり、明かされてみればただのガチ悪組織だった……というのもまあ、なんとも懐かしき味わい。玖渚直も、意外と好人物かつ常識人(ガチ悪組織内においては)だったが、手の内を隠していただけの可能性もある。今回の事件の黒幕という説(遠ちゃんの後追いをするよう、近ちゃんをけしかけたとか)も考えてみたけれど、手がかりは少ない。そして新たに急に出現した設定かのような玖渚友の双子の弟、玖渚焉は……わからん。何もわからん。旧シリーズを読み返して考察すればちったあわかるのだろうか。
一方で同じく新キャラである玖渚遠は、こちらはかなり好い。誰かの感想で目にしたものだけど、見た目はごく普通の凡人だけど多大なる才能を期待されている(そして今回えらい形でそれが表に現れた)玖渚盾と、見た目はいかにも特別だが本人としては外観に中味を追いつけようと精いっぱいな玖渚遠という対比は面白い。キャラクター的にも、西尾維新作品ではあんまりいない、わりと新鮮な造形だ(しいて言うなら善吉かな、精神的には)。今後新シリーズが続いてくなら、このちぐはぐなホームズ&ワトソンでやってくのかしら。であれば嬉しい。
ただしそれでミステリをやってく場合は、もうちょっと、ミステリ部分にもう一声欲しいところではある。今回の事件は、トリック……というか謎のタネは成程分かったにしても、そこから犯人を突き止めるまでの流れはそんなに上等じゃない。犯行自体が計画性のない突発的なものだったとしても……そこからいかにも深遠なる計画があるように細工してみせるのが本格ミステリであり、それを流々と攻略するのが本格探偵じゃないかな、と思うからだ。たとえオチが隕石でも、だ。まあ、最後にあんなんなるところをして、なるほど戯言だな、と思えたわけだけれども。
ともあれ17年ぶりに再会した戯言は、変わるところもあり変わらぬところもあり、つまりは世界は終わった後も続いていていくってことを確かに実感できてよかった。今後新シリーズが展開していくのかわからないが、きっと続いてはいくのだろう。結局出てきやしなかったパパとポンコツ化したそうだが絶対言葉通りではないママも、いずれご縁がありますよう。

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