12/27 『神を統べる者 上宮聖徳法王誕生篇』を読んだ

面白かった。三部作最終巻、これまでの総決算的なスケールでするすると読めて楽しかった。なかなか難しいかと思ったが、結局苦労したのは1巻と2巻の序盤くらいのものだったな。それってつまりほぼ史実に無い部分ということではあるが、それを経ての今巻で倭国に戻ってきてからの話はあんま詰まることなく読めたし、伝奇様々だ。
インドで仏教の真髄を極め悟りを得た厩戸が国の政治に携わるにあたり、せっかく手に入れたブッダという状態を停止させる決意に至るところは、なかなか感動する。平たく言えば還俗ということになるのだろうか。ブッダを得、ブッダに共感し、ブッダと自身との差異を見つめ、そしてブッダを捨てるに至る。国としては仏教を取り入れる決断を下したまま……あるいは下したがゆえに。それでもまあ、個人の救済を目的としていたブッダならば、「諸行無常なり」とでも言って受け容れるのかもだが。
虎杖と柚蔓、この二剣士も良かった。歴史に名を残す人物ではない(多分)からこそ、その行く末をはらはらしながら見届けることができた。二人の関係性も、一言では言い表せない、というか言おうとはするけど周りでいろいろありすぎて言い逃してるうちにその一言も変化したりしてきてどんどん言い表せられなくなってる関係も良い。最終的に、背中合わせの戦友というのが、二人のもっとも密接した距離であり、それ以上にはならないんだろうな。それが物足りないのか十分なのか、それもまた一言では結論し得ないが。
あと、物部布都姫は、1巻のときとはだいぶキャラが変わっていて、果たしてこれは最初からこの予定だったのか気になる。ひょっとして途中でヒロイン変更の憂き目に遭ったのではないか……彼女にも禍霊が見えていた筈なのにな。
大陸から仏教を取り入れ、しかしその目的は教義よりもそれに伴う文明や技術を得ることで、そのために大和古来からある天神地祇の力を利用し仏教の功徳と偽る、まあなんという罰当たりな行いと言えるが、そうすることで後の神仏習合な日本文化ができあがり、我々はこうして様々な神話や宗教を好きなとこだけ取り込んでエンタメとして楽しめるようにもなっているわけだから、感謝しないとですね。

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