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1/30 『柳生十兵衛死す 上』を読んだ

山田風太郎で読んだことがあるのは『魔界転生』だけで、十年くらい前だったが、そこそこ苦労した覚えがある。けれどこの作品はあのときの思い出に比べると格段に読みやすく感じる。俺の〝読み力〟がいつの間にかいちじるしくせいちょうしていたのかと、最初は思っていたが、そうではなく普通に山田風太郎が優しいだけだ。難しい漢字をひらいたり、地の文で当時の歴史事情などの解説も現代語を用いつつ頻繁に差し挟まるし、会話文においても読者に分かりやすいよう、たとえば天皇の呼び方もおくり名にしてくれたりする。ただまあ陰流の解説に野球のたとえを持ち出したり、さらには能によるタイムスリップの話にスカッド・ミサイルvsパトリオット・ミサイルなんて文句をブッ込んできたときは、こ、これが山田風太郎……!!と天を仰いだ。
『魔界転生』ついでに言うと、冒頭に柳生の庄を7人の男が訪ねてきて、しかもその面子に由比正雪やら宝蔵院流の槍使いやらと、『魔界転生』セルフオマージュのような描写があったが、これは同じ世界の出来事なのかしら。なにせ評判・威光を音に聞くばかりでちゃんと読むのは2作目の山田風太郎、そういう作品のつながりがあるタイプなのかどうかも未だ不明。まあその辺もあれこれ想像しつつ楽しみたい。
舞台が室町時代に移ると、歴史上の著名な人物がぞくぞく登場してきてより楽しくなってくる。特に一休の活躍が炸裂している。名前は知っていてもいつの時代に活躍していたのかはよく知らない人物などがこうやって出てくるとワクワクするし、今のFGOなどにも通ずる楽しさが感じられる。調べてみたら朱鞘の大太刀を携えてたのも史実らしいし、めちゃめちゃ面白い坊主だなこいつ。
他にも、世阿弥って世阿で区切るんだとか、愛洲移香斎センセイの強キャラ描写に震えるとか、見どころ多数で飽きない。それでいてまだ二人の十兵衛が出会っておらず、物語がいかなる結末を迎えるのか……否、いかにしてあの冒頭の結末を迎えるのか。刮目するっきゃないね!

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