5/15 『ふたたび蝉の声』を読んだ

面白かった。
ウッチャンナンチャンのウッチャンこと内村光良の小説。ちょうどこの本を読み始めた頃に配信された「内村さまぁ~ず」で、ウッチャンは実は蝉が大好きで、毎年夏になると一人で公園に出向いて蝉を探すのだという。夕方までかけて100匹くらい見つけるまで帰らないとか。怖。だがそんな蝉大好きウッチャンがタイトルに蝉を用いた作品となれば、これは期待せずにはいられない。
で、そんな期待に十分応えてくれる面白さだった。ウッチャン、こんな小説を書くんだあ、と長年親しんできた芸人の新たな一面を覗かせてもらった。前半は時系列をバラバラに様々な登場人物の人生のワンカットを描き、人と人、時系列のつながりを読者に整理させることで登場人物への思い入れを深め、そして後半ではすっかり感情移入した登場人物たちの人生のさまざまな展開でこちらの心を揺さぶってくる。技巧がある。
登場人物たちが直面する物語は、ある者は終着であり、ある者は発展と成長、あるいはそのどれでもない進んだり下がったりのままならない日々であったりする。何も、序盤で張られた伏線を次々と回収していくといったものではなく、それらは何となく有耶無耶になったり、人知れず解消されたり、更にははっきりと後悔としてずっと残り続けるものであったりする。そうしたものが派手過ぎず地味過ぎず、淡々と、あるいは堰を切ったように濃密に描かれていく。気づけばすっかり彼ら彼女らの人生に寄り添っていた。
夏ににおいて蝉の鳴き声というのはもはや定番を通り越して夏という記号の一部とさえ化しているが、しかしそうやって鳴く蝉たちはみなひと夏限りの命で、そのどれひとつとして同じ鳴き声はなく、一年ごとにそれらは全て違う蝉の声へと入れ替わっている……けれど、それでもやはりまた夏が来ればふたたび蝉は鳴きはじめる。無常でありつつ永劫でもあるのが蝉の声であるのかもしれない。

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