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2/26 『絶体絶命ラジオスター』を読んだ

たまたまJUNK20周年とオールナイトニッポン55周年の特番が放送された月に、ラジオパーソナリティが主人公の作品を読めるとは、奇遇なこともあったものである。さらにあらすじを読むと、もう一人の自分に命を狙われるとあって、ちょうど最近読んだ『柳生十兵衛死す』とも通ずるところがある。ランダムに決めた順番で似たような要素が続くと、巡り合わせを感じる。まあ、奇遇だなって思う程度だけども。
出てくる登場人物の名前が、実在のラジオパーソナリティやラジオ局アナウンサーのそれをほうふつとさせ、読んでてなんとなくだがイメージは湧きやすかった。舞台となるラジオ局も有楽町だし。もっともモデルと思しきパーソナリティの人の番組はべつだん聴いてなかったんだけど。
お話は要はループものなんだけど、一つの大きな謎を何周もループを繰り返すことによって少しずつ解き明かしていく……のではなく、ループごとに違った問題があらわれて、それまでの謎はひとまずさて置き、それぞれの問題を追いかけていき、そこでの出来事や行動が交錯し、互いに影響を与えているという構成が、なかなか斬新だなという気がした。1周目は身に覚えのない出来事の連続と、自分の偽者による混乱。2周目は某国独裁者の弟への取材をめぐる騒動。そして3周目は恋人との別れ話と母親との関係。これらすべてが、三日間の中に複雑に織り込まれて併存している。たったひとりの群像劇とでも言うべきか。やや強引に思える部分もあったけども。ひとまずさて置くにしてもさて置きすぎじゃないかというところが。特に2周目、最初の時間遡行を経た後に、混乱も冷めやらぬうちに独裁者の弟への独占インタビューに興味が移るのはどうなんだ。そんな場合か。いや、そういうものかもしれないが。あまりに突拍子もないSF体験をして、目を背けたくなったのかもしれないが。タイムトラベルSFよりは、国際サスペンスの方がまだしも目を向けていられるという気持ちは、わからないでもない。
しかし某国独裁者の弟がラジオリスナーだったところはちょっと面白かった。某国の放送が混信してくるというラジオあるあるが、向こうにとってもあるあるだったというネタ。実際そうなのか(某国独裁者の弟がラジオリスナーなのかではなく、向こうの国でもこちらのラジオが混信して入ってくるのかということだが)はともかく、楽しい想像ではある。
タイムマシンがどうしてここにあるのかの経緯とか、タイムスリップの仕組みを漫喫でネット検索して理解するのはどうなんだとか、ハガキ送ってくれた女子高生リスナーの家にプライベートで突撃するのはラジオ界によくない誤解を与えますよといったようなことも思い浮かんだんだけど、そのようなことはまあ本筋ではないのだろう。未来を知っても過去に飛んでもそれを改変することはできず(正確にはその改変さえも事象の中に折り込んで)、ただ今を足掻くことの連続でしか事態を打開することはかなわない。「生放送に正解はない、あるのは結果だけだ」という、いつかの主人公の言葉は、今回の一連の騒動そのものをも予言していたか。面白かった。

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