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10/13 『怪盗フラヌールの巡回』を読んだ

まず、イラストが大変よろしゅう存じます。TAKOLEGS先生、FGOなどで見知って、いいなと思ってたけど、西尾維新のつくるキャラとの相性もバッチリじゃない。登場人物紹介ページを見るに、今巻の登場人物全員分のイラストが描かれてるようなんだけど、どっかで見れないんか。足元だけなんてむごいぜ。
ともあれ始まった西尾維新の新シリーズ作品。返却怪盗……忘却探偵のライバルにいそうな肩書きで、美少年探偵団のようにマジで元々はそういうつもりで産み出されたキャラクターだったのかもしれない。なかなか愉快な設定だなと思っていたら、冒頭で語られたいきさつは思いのほか深刻だった。父親との死後の確執がエグい摩擦係数。あとがきで「今の時代に怪盗モノを書くのは如何なものか」といったことを言っていたが、そんな葛藤が反映されてたりするのだろうか。
主人公である道足くんのキャラクターは、才ある家族に囲まれて自身を非才と思ってる感じは『ヴェールドマン仮説』の主人公とちょっと被ってるが、ほのかに漂う「おぼっちゃま」感が特色といえば特色。父親の資産を(曲がりなりにも)受け継ぎ、育ての親の協力のもと闇夜に繰り出すというのはバットマンぽくもある。
しかし怪盗について悶々と葛藤した割には、新たなる名探偵として生み出されたキャラクターである涙沢虎春花がめちゃめちゃ好き放題やってたのがおかしい。名探偵はいつの時代でも如何ともし難いということか。
そんな二人が今回の舞台となる海底大学へ向かうわけだが、海に囲まれた閉鎖環境に卓越した頭脳の持ち主たちが集まっており、そこに探偵とワトソン(的立ち位置)の男女二人組が赴くという構図は『クビキリサイクル』のそれを踏襲している感じがある。出てくる登場人物全員のキャラも近年の作品の中ではとみに濃い。具体的には、登場人物全員に口癖がある。こんなにキャラをデカ盛りさせてるのは久々なんじゃないだろうか。デビュー20周年を迎えての、原点回帰という趣かしら? 人格が入れ替わる双子とか、あと犯人が実は別人に成り代わってたオチとかも、なんか彷彿とさせる。あの頃の西尾維新が戻ってきたというのか。でも土金ポワレの口癖はやりすぎというか何というか、どうしてもはっぱ隊が頭に浮かんできちゃうな。
つつがなく執り行われたかに見える返却活動の最中に起こる事件と、その顛末についてだが……犯行のトリックに関していうと、正直肩を透かされた思いは否めない。刺殺・絞殺・毒殺・病殺の四重殺の謎に高等数学を用いた鉄壁のセキュリティ金庫扉密室の謎、これらすべてを明解に解き明かす陶然たるロジカルなトリックを期待してたが……そういうのではなかった。蓋を開けてみれば(実際ほんとうに〝蓋〟開けてたし)呆気にとられるほど単純な仕掛け……ミステリのトリックというより手品のトリックのたぐい。確かに読み返してみれば話運びや会話の流れは、種明かしに向かってそう結論できるように仕向けられている気はするが。
だとしても、「超難度の暗号セキュリティをどのように突破したのか?→数学の超天才に解かせた」「四重殺の理由、その場にいる者たちを鮮やかに騙し通せたその手法は?→演技の超天才だったので騙せた」というのはさすがに、キャラクターのキャラクター性に信頼を置きすぎなのではと思わんでもない。いや、事前にそう説明はされてましたけども!的な。
しかしこれはまあ、怪盗などというものが存在する世界におけるリアリティラインをどこに引くかという問題もあるかもしれん。すっかり西尾維新の描くキャラクターの奇抜さに慣れていたから、それを前提として、トリックはトリックである種別問題としてリアルにやるのではないかと、思っていたところがあった。もちろんそういう作品もきっとあるだろうが、今作はそういうのではなかったと。キャラクターたちはキャラでキャラクターをやっているのではなく、真剣(マジ)の真実(ガチ)でそういうキャラクターなのだと……もしかしたら第一の事件とほぼ無関係に起こってしまった第二の事件は、そうしたことを示すために起きていたのかも。それをしっかり受け止めず、流れで解決編に進んでしまったきらいはある。
その辺の認識のすり合わせというか、呑みこみ態勢をいかにとるか、「この作品を最大限に楽しむために取るべき態度はどれか」をいかに迅速に導き出すか。それこそがよき読書の秘訣であるといえる。まあ、どうにも気に入らなかったらふざけんなこんなもんクソ本だクソ本、って投げ飛ばしたって別にいいだろうけど。
そういうことで言ったら、トリック部分でちょっと透けたもののそれ以外は相変わらず実に魅力が色濃く焼きついたシリーズ第一作であったので、続きも楽しみにしていきたい。主人公とその乳母とのロマンスの行方にも注目……なあ? これも令和の時代に則した新たな禁断の関係を模索した結果なのか? 注目だ。

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