6/24 『それでも、警官は微笑う』を読んだ

面白かった。
メフィスト賞受賞作というだけで買った初作家の本だったが、さすが信頼と実績のメフィスト賞あるいは震撼と叱責のメフィスト賞、楽しめた。初っ端からいきなり下半身丸出しの成人男性がお出しされたのには面食らったが。
警察の武本&潮崎、麻取の宮田、双方の視点から事件の謎とその裏に隠された巨大な陰謀に迫ってゆくーーかと思いきや、わりと早くに犯人の視点が入り、そこから事件の謎や渦巻く陰謀なども明らかにされ、犯人の身の上さえ語られていってしまうので、中盤時点で読者は物語をおおよそ全てを把握できてしまう。その点でやや思ってたのと違ってはいたが、描かれる登場人物たちの人間性や、彼らが何をどう考えどう真実に至るかという流れを追うだけでも面白かったので結果はオーライと言えよう。描写も、事件のあらましよりも、そこに至る人間達のドラマや心理などのほうに重点が置かれていたようにも思う。
特に主人公たちの根底に共通する、「やらない後悔よりやって後悔する」という信念はとても丹念に描かれていて、文言だけならよく聞くものではあるが、登場人物にそれを言わせたうえでガチにやっちゃいけないことをやってしまい、その後悔を丹念に描くという展開は意外となかったのではないか。
とはいえそうしたある種のリアリティを持ちだしつつ、登場人物たちのキャラクターはわりとマンガチックでもあり、そのバランス感が特徴的とも言えようか。こうしたキャラクター性がやはりメフィスト賞の特徴であり、やがては西尾維新などを輩出することに……と思ったらこれ『クビキリサイクル』より後のメフィスト賞受賞作だった。同年の刊行だった。
潮崎のキャラクターはなかなか好きだ。機転と弁舌で飄々と世を渡るタイプ、かと思いきやそんなんじゃなくて新鮮。
犯人、というか敵組織の犯行の動機に関しては、これはさすがに現在から見るとどうなのかってのはある。「工業技術で遥かに上回る日本に勝てる輸出品目は銃くらいしかないので、日本が銃所持を解禁するべく密造銃を安くバラ撒こう」というものだが……作品時代より20年弱経った現在はもう、そんなことしなくても大分上回っちゃってるもんね、いろいろ……技術レベルとかも。野暮な話だが、仮に彼らの計画が警察に嗅ぎつけられることなく順調に進んでいったとしても、2020年に至るまでのどこかの段階でストップがかけられてどの道捨てられてたかと思うと虚しい。
虚しいと言えば、宮田の結末もだが。潮崎は「聡子はいい母親になる。なってもらわねば」と本気なのかどうか言っていたけど、それも怪しく思える。聡子が今後の人生の明るい未来を語っているとき、母親ばかりか息子のことさえ口にのぼってなかったし……元夫とヨリ戻しかけてるけど、その元夫は同じように自分の母親を捨てたいと思ってるかどうかも……まあ、そういういろいろも含めて、おそらくはこれ以上語られることはないのだろう。信念を貫き、後悔を背負って、尚歩みを止めぬ男三人に幸あれだ。

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