4/16 『ショウリーグ』を読んだ

面白かった。

すべてシナリオ通りに展開する野球の試合、それらを観る観衆の存在までもがシナリオに組み込まれているのかも、と匂わせながら物語が進んでいくので、その様子を読む俺さえもシナリオに組み込まれてるのでは、と考えて、常にこちらの想像を裏切ってくれないと物足りなくなってしまう部分はままあった。そうした展開の動きの楽しみはもう少し欲しかったところだが、一方で、いろんな人物がいろんな立場の視点からショウリーグという奇妙なシロモノを眺めることで、たとえばスポーツ観戦という興業のあり方、野球というスポーツそのものの仕組み、特殊ルール下での選手同士の心理の駆け引き、観客やいちファンの生活模様など、見所はバラエティに富んでいた。昔読んだ黒田洋介の『無限のリヴァイアス』ノベライズを思い出した。あれも、アニメの物語を、主要人物や脇役を問わず様々な人物の視点から描いた話だった。ひょっとしてブックメイカーの黒田倉之助の元ネタだったりするだろうか。

勝手ながら今後のショウリーグの展開を考えてみたが、プロ野球チップスのようにショウリーグチップスみたいなものを出して、選手のカードを付録につけよう。そのカードには細かくステータスや選手に固有の能力などがあり(籠絡楽朗なら相手を買収できるとか)、カードゲームもできるようになっている。で、それらの能力は実際のショウリーグでも使われたりしてると面白いんじゃないだろうか。まあこれだとゲーム性は高まってもプロレス性というかアドリブ性が失われてしまうかもだが……

とまあこんな風にやたらと作品の中身に口を出したくなってしまうのは、本作が「境界に立たせ、跨がせる」ことを描いているからではないかと(半ば言い訳的に)思う。ショウと試合、ヤラセとガチ、一流と二流、選手と観客……そうしたいくつもの境界を揺らがせ、往来させて、結果的に全体の活気を上げていくシステム、それがショウリーグであった。そしてそのシステムは、本作を生み出したプロジェクトである冲方塾にも同様のことが言えるんじゃないか。冲方丁作品の二次創作募集によって人材を見出し、こうして一次創作品の作り手を誕生せしめた。今後もどんどん、境界を踏み越えて行く者が出てくれるといい。

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