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10/5 『僕の心臓は右にある』を読んだ

チャンス大城という芸人を初めて知ったのは「東京ポッド許可局」のなかで紹介されていたのを聴いたのがきっかけだった。その頃から強烈なキャラクター、そのキャラクター性に勝るとも劣らぬ強烈で刺激的なエピソードの数々に、世の中にはスゴい人がいるなと思ったりしたものだった。それが10年ちょっと前くらい。
その後もたまにぽつぽつとテレビやラジオなどに出ているのを見聞きし、そのたびに強烈なキャラクターとエピソードを披露して笑いを取っていて、地下芸人なるもののたくましさを感じていたけれど、しかし本書で書かれている芸人時代の話などをみると、たとえどれだけたくましかろうと、キャラクターが強烈だろうと、刺激的な人生を歩もうと、「地下」の暮らしというのは辛く苦しいものなのだなあと思わせる。幼少期~少年期のエピソードは、いじめられたりいろいろとうまくいかなかったりとかなりしんどい思いをしていただろうに、しかしその思い出の数々は実に精細で、情景や雰囲気がよく伝わってくる。だが芸人を志し、全然売れないまま先の見えない「地下」暮らしをずーっと続けているくだりは、どことなくファンタジーなエピソードが増えている。それでいて全体のエピソード量は芸人前のそれよりも少ない。そのアンバランスさが言葉にならない、言語化に満たない何かを物語っているように見える。
ただ、それでもやっぱり……圧倒的に、おもしろエピソードの宝庫なんだけれども、この人生。これだけの逸材がよくここまで埋もれていたもんだとも言えるし、ここまで埋もれていたからこそ、石炭がとんでもない圧力をかけられてダイヤモンドになるがごとく、今日に至って輝きを帯びはじめたとも言える。波乱万丈がとどまることを知らないので、ここから一気に飛躍だとも言い切れない、同じだけの速度で再び地中に突っ込む可能性も存分にあるが、この輝きを忘れるのはあまりに勿体ないので、今後も要チェックしていきたい。

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