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10/19 『七つの魔剣が支配するⅩ』を読んだ

交わりのⅩ! とか言ってる空気でもない激アツの10巻。
まずは前巻最後のおさらいというか反省会、カティの来歴と今後の展望が議論される。数ある魔法学校の中でもキンバリーに入学してくるような輩は、どうあれ尋常の経歴を抱えてはいないということがよくわかる。しかしまあ、以前「このパーティ、この親密度のままいったらそのうち自然な流れで仲良く乱交とかはじめちゃいそうだな」とか思ったものだったけど、ほんとにそういう流れも「ある」ってことが明示されてしまったので参る。既に一部の者はヤる気だってんだから。一部っていうか、ピートだが……両性という己の資質をどこまでも活かそうとしてくる。なんか御家庭の御事情も見え隠れしてきたし、いずれ純血魔法使いだけが狂気の虜じゃないってことを身をもって証明してくれそうでワクヒヤする。
続いて決闘リーグの最終フェイズ。ミリガン先輩もさることながら、ウォーレイ先輩も味がぐんぐん出てきてよい。オリバーの表の戦術における先輩格という一面も見せられたし、まだ活躍の機会はあっていいんじゃないか。
そしてとうとう雌雄を決するゴッドフレイとレオンシオ。欲を言えば、もっとじっくりたっぷり見たかった思いはあるが、まあさすがに本筋ではない以上やむなしか。本人たちもぐだぐだした戦いは好まなかっただろうし。思いの丈を出し尽くしていい感じに成仏できたっぽいレオンシオ先輩、いざ己の中でケジメがついたら顔の傷も治してゴッドフレイと普通に親しく付き合えてたら面白い。
そして表の戦いと裏の戦いの合間をつなぐ一幕……にしては濃厚が過ぎる一幕。前巻でナナオが一線越えちゃったなーとか言ってたらこれだ。一線とはスタートラインの意味だったか。やや出遅れたオリバーもすぐに追いつき、切磋を琢磨されたようで何より。ただ、カティの問題と同様、ナナオの情念がこれで寛解したわけではないだろうし、むしろ勢いを増すこともあり得る。
それと、テレサの下にも転機の予兆が訪れていたのにも注目だ。リヴァーモア先輩のおじさん化もだが。混沌を是とするキンバリー、役割に徹すべしと自己を抑制するアサシンに、そのまま役割を全うするだけの存在でいさせるはずもなく。ナナオとオリバーの出逢いが運命を変えたように、ここにまた新たな運命が萌芽したのかもしれない。
そうした、様々な事柄が転機を迎えたひとつの結節点たる今巻のメインディッシュ、デメトリオ=アリステイディスとの決戦。そしてその最中に紐解かれる、オリバーの地獄。これまで積み重ねられてきた描写を思えば、けして想像を絶するような光景というわけではないにしろ、だからこそそれが丁寧にじっくりと、心根を炙るように描き出されると、そりゃあもう……デメトリオ先生だって仕手をしくじる。策に溺れると言ったらそれだけのことじゃあるが、それだけと言うにはあまりにも、というやつだ。
オリバー自身の苦痛に共感することなど無理に等しいが、彼の地獄を黙って見ているしかなかったグウィンやエドガーの心境たるやこれまた地獄で、だがその二人の心境には読者もいくらか共感の余地がある。特にグウィン……いや、これからはグウィンおにいちゃんと呼ばせてほしい。不器用ながらもシャノンのそれと何ら純度の劣ることなき真っ直ぐな愛情。父親の最期の決断といい、ふたりの覚悟と献身ぶりには目が潤んじゃった。
にしても、これでオリバーのバックグラウンドが明かされたわけだが、てっきりシャーウッドのおじいちゃんが「同志」たちのパトロンで、彼らの目的にオリバーが母の復讐を重ね掛けしていたものと思っていたが、そうではなかった。マジでオリバーと、グウィンとシャノンが主体となって作り上げた組織だったのか。となると、「同志」たちも教師たちへの復讐だけを目的としているのかしら。それともオリバーの言った「世界を優しくする」というのが大目的なのか。オリバーが言うように、彼の経験してきた地獄などきっと魔法界にはそこら中に転がっていて、たとえばキーリギだって、方向性は違えどまさにオリバーやシャノンと同様の仕打ちを受けていたわけだし。そうした世界全体に対する革命を、「同志」たちは目指しているのか。そこんところが未だにちょっとあやふやな気がしているが……俺が単に読み逃してるだけかな。おそらくここまでが物語の前半戦だろうから、後半戦へ行く前にちょっと序盤の巻を読み返してみないといけないかもしれない。
ユーリィともお別れしてしまい、寂寥感を抱えて物語は新たな局面へ向かう。エンリコ戦のときもそうだったが、順調に仇を討ちつつ全然達成感というものが訪れないな。むしろどんどん相手が本気になってくるだろうと戦々恐々感が高まる。特に今回はぶっちゃけ作戦失敗してたし。悲願を果たすにはまだまだ力が足りない。次巻では学校を飛び出して何かするようだが、更なる戦力増強、あるいは運命を変える出逢いが待ち受けていたりするのかしら。いっそうの期待を込めて、次巻を待つ。面白かった。

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