9/3 宗田理『ぼくらの『第九』殺人事件』を読んだ

面白かった。
ひとみが通ってるミッションスクールで「セブンシスターズ」なるグループを作っていたことが発覚。教師相手にいたずらを仕掛けたりして、学内じゃそこそこ有名になってたらしい。ほんとこのヒロイン……
ひとみってぼくらメンバーのなかでも一番の美少女って言われて、今巻でも天野に「近頃はいちだんと美しくなったな」とか言われたりしてるんだけど、のわりには、英治以外の誰もひとみに想いを抱いてるとかいったような描写がなかった気がする。マドンナ的存在でありながら、マドンナではない。久美子や佐織がそっちのけでくっついたりしている。英治以外はみんな「こいつめんどい女だ……」ってのがばれてるのかもしれない。
いや英治も本当は気づいているのかもしれない。その証拠に今巻では、なんだかあんまりひとみにときめかなくなっちゃっているそうだ。高校に入りひとみに翻弄されることが増え、わかんなくなっちゃってるところに父親が失職し、考えることが増えてついにショートしてしまったのだろうか。そんなことやってる間、当のひとみは「セブンシスターズ」を結成してたのに。
シスターズとぼくらでディズニーランドでのグループデートが催されるが(しかし何だかんだいろいろやってんなあこいつら。世が世ならウェイ系と言われて然るべきだが、そういう感じはあまりしない。これもまた世が世だからか)、英治が行けなくなり、ひとみとペアになったのは相原だった。それを聞いて英治は「相原はひとみのことが好きなんじゃ?」と勘繰るが、しかし訓練された俺にはひとみが英治不在の間に他の誰かと(万一にでも)いい感じにならないよう自らが犠牲となって空席を埋めてやってたようにしか思えない。英治がひとみにときめかなくなったことを相談されて、「じゃあ俺が好きになってもいいな?」みたいなこと言って英治をドキッとさせたのも、呆けてる英治の気を取り戻させるためだとしか。諭す相原に英治が「おまえって、どうしてそんな大人ぶったことが言えるんだ?」と訊かれ、「これが、おれのウイークポイントさ」とさびしそうな顔で答える。なんつうかお前、マジで英治に人生捧げてないか?
あと、自殺未遂した小黒。受験勉強に疲れて自殺未遂をするっていうのはおぼろげに覚えていたが(ほんとは自殺を遂げてたものと記憶してたが)、その後「シスターズ」の女の子とデートしてめっきり元気になっちゃってたのは忘れてた。お前……!とは思ったけど、まあ元気になって良かったよ。
とまあ、事件の本題に入る前段階のところでいろいろ感じ入ったりしてたんだけど、本題の殺人事件はといえば、これが結構シンプルで、実のところあんまり盛り上がりもなく終わってしまう。まあ本題に入っても今巻のメインとなるのはぼくらの宿敵にして好敵手たる城山ひかるの活躍だし、そのインパクトには今さら銀行の不正融資や暴力団の悪徳程度では太刀打ちできない。くぐった修羅場の数が違う。いやガチでな。
ついでにいうと、十数年越しに気づいた事実だが、殺人事件と『第九交響曲』、全然関係ない。見立ても何もない。発端からしてひかるのいたずらだったし。その対決の最中に偶然死体を発見してしまって、事件の捜査と並行しながらひかるとも競い合い、『第九』の合唱練習も行い、事件解決し、対決は引き分けて、合唱は成功を収めるだけだ。どうなんだって気もしなくもないが、ここまでくるといっそ面白くもある。まあ思い出びいきではあろう。しかしいろいろ考え過ぎてひとみへの想いさえ曖昧になっていた英治が、歓喜の歌を一心不乱に歌い、「ただ歓喜の中に、すべてが埋没していた」というまでになっていたのだから、読後感はいいものなのだった。

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