8/7 『ロック・オブ・モーゼス』を読んだ

面白かった。
初めて読む作家なのでどんなものかと緊張しながら読んだが、同学年一コ上の現役高校生天才ギタリストに音楽センスを認められて一緒に学校を飛び出したかと思えば、いきなりホテルに入ろうとしたりそれを回避したと思ったら山奥でハッパ喫い出したりと、無垢な女の子がヤベー世界に連れ込まれる話かと緊張が高まる。がそこから音楽の世界への道が開けていき、主人公はそちらへと傾倒していく。音楽談義や演奏技術についてのあれこれなど、聞いててもロクにわかりゃしないんだけど、主人公の桜はどんどんわかっていってるんだなということはわかり、その様が実に楽しそうであることはわかる。俺もこういうどんどんわかり、どんどん覚えていくモノというのが欲しいなと羨ましくなる(もっとも、こうした部分を含めて桜の才能ありきであると後に語られるんだけども)。
桜の才能の成長とともに進んでいく物語は、苦みを抱えつつもおおむね喜びに従って進むのでとても読みやすい。ところどころにハッパが顔を出してくるのにはどういう顔をすべきか悩むものの、とりあえずそいつで暗黒面に進む話ではないようなのでひとまず黙って受け止める。
また、作中の関西弁(京都弁だろうか)がとてもよい。ロクに知らない音楽バナシを理解できなくともするする呑み込めてたのはこの関西弁によるところも大きいのではないかという気がする。読んでる間は俺も何故か、長い文章とかを考えてるときに関西弁でしゃべらせてみたりしたくなっちゃっていた。
沖縄の初ライブ成功がクライマックスであり、それ以降の展開は立派にプロミュージシャンとなった桜の姿を描いてエピローグなのかなと思いきや、まさかのモーゼのエピローグだった。才能で新たな道を切り開いた桜を前に、才能によって道を閉ざしたモーゼの終焉を淡々と描かれて、乾いた虚しさが募る。その悲しみをも呑み込んで、音楽への愛を謳うことこそブルースだという。希望に輝いているなんてこたないけど、さりとて絶望に塗り潰されてるわけもなく、ただ今とこの先を懸命に突き進んでいこうという意思に満ちていた。

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