見出し画像

6/14 『源平妖乱 鬼夜行』を読んだ

前作刊行時の著者のインタビュー記事で、このシリーズは長く続けていって、義経の最期まで描きたいということを言っていたけど、どうも残念ながら本作でひとまず完結してしまったらしい。悲しいことである。
その代わりと言わんばかりに、1作目からの大敵である黒滝の尼との戦いの決着を、大ボリュームでお届けしている。歯応えがあった。しかしこの文体……ダッシュや三点リーダをふんだんに用いてたっぷり間をとって描写するやつ、前2作はこんなに間をとっていただろうか。今回、あまりにもそれが頻出していた気がした。あと時代小説にはよくある気がする、読点で改行して鍵括弧による話し言葉が入り、それをもって文の締めとして次の行ではもう別の文章になってるやつ。具体的には、

 女は声を潜め、
「あの……沼姥の所に何をしに行かれるんでしょう?」
 黒駒の男は、笠の下で眉を険しく寄せている。

p.7

というの。これがちょっと馴染めなかったな……脚本のト書きみたいだ。だからってわけでもないけど、ちょっとそこが呼吸が合わなくて苦心した。ダッシュやリーダ多用というとクランチ文体だってそうなのに、それともまた読み味は違うのだよな。
お話は、殺生鬼となってしまった氷月の行く末とか更なる黒幕と思しき不死鬼・昔男の正体など(これはググったらわりと答えっぽいものすぐに出てきて、単に俺がもの知らずなだけだったけど)、伏せられたままの伏線などもまだまだ残していたものの、黒滝の尼との決着まではどうあろうともつけてみせるという気概を感じた。じっさい、かなりの終盤に至ってもなかなか勝ち筋が見えてこないような激戦の連続で、本当に決着がつくか冷や冷やしながら読んでいた。何しろ影御先の戦力ったらずっと心許ないのだ。只人たちは義経や弁慶など一部例外を除いて徹頭徹尾只の人間で、最終決戦に臨んでさえ軽くいがみ合ったりして、そこを敵の罠に嵌められてずんずんと死体が積み上がる。黒滝の尼も、ぎりぎりまで切り札を隠し持っていてここぞというところで的確に切るなどして、ボスキャラとしての格も最期まで高かった。
ただ最後の終わり方が、続編の予定はないけど続編を匂わす映画の終わり方みたいな感じにしてるのが、ここまで来たらもうバシッと終わってくれても良かったんじゃないかとは思った。吸血鬼とかゾンビとかのパニックホラーものとしては王道かもしれないが……この先の義経にも影御先にもまだまだ険しい未来が待っていることはわかるし、こういうの期待だけさせてもらっても返ってくる見込みは薄いんだし。これだけの大ボリュームを読み終えたからには、読み切った!っていう満足感が欲しかった。かくなる上は、ちゃんと続きを読ませてほしいものだ。日本吸血鬼暗闘史観もまだまだ吸い足りない。望み薄でも、期待しておこう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?