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11/29 『インナーアース』を読んだ

初めて読む作家。手に取ったきっかけは、なんだったか……たまたま目についただけだったか。目について、表紙とあらすじとオビの博多大吉推薦コメントに惹かれて買ったんだったかな。
地下20kmに存在した大空洞にスーパーマシンを駆って探険・計測行という、ハリウッド映画みたいなスケールのあらすじだが、冒頭は地図製作会社の日常的な仕事風景が描かれる。ただこれはこれでけっこう面白く、地下に潜らなくても、地図製作の日々を描くだけでも一本作品ができるのではないかと思わせる。
地下に行く手段はどうするのか、どういった困難が発生してそれにどう対処するのか……という問題に関しては、それができるスーパーマシンを既に開発済です、で済ませてしまうのは豪胆だが、まあ科学者が主人公の話ではないし、俺も実際にそれが可能かどうか検証できたりするわけではないので、「できる!」ということなら、そうなのだろうな、と思うしかない。前人未到の地底世界の描写も、なにぶん前人未到ゆえにどれほどのものなのかさっぱりわからないが、その代わりとばかりに地底シミュレーションとしてケイビングのシーンがあり、それはなかなか臨場感もあってよかった。『クレイジージャーニー』で観た、洞窟探険の人の回を思い出せば、途中で呼吸困難になったり急に恐怖が込み上げてくる感じは理解できる。
地底への出発は意外とあっさりしてて、大空洞に到達してからの計測もサクサクと進んでいったところに起こる異常事態、そしてそこから明らかになる、プロジェクトの裏に隠された陰謀と計画を作り上げた者達の更なる目論見――なのだが、これはちょっとどうなのかと、うまく乗れなかった。地底探索の真の目的、それは来たる宇宙時代に備えて、金星移住のためのシミュレーション、そのデータを取ること……だと言うのだが、星の彼方を見据えて星の内部に潜るという構図はなるほど洒落が利いてるとは思うものの、それでやることが車内やスーツに小細工を仕掛けてハプニングを起こし、人間関係にヒビを入れるというのは……ちょっとショボい。それは地下20kmという人類未踏世界への初めての突入、その調査と計測の最中に、本当に並行してやんなきゃいけない実験か? という疑問が沸く。JAXAでも似たような訓練があるというが、それならJAXAにやらせとけよという話だし、金星に酷似した環境である地下の調査の方がまだまだ全然大事じゃないか? 裏の目的が表の目的に負けてる気が拭えなかった。
まあ、それで陰謀に巻き込まれた地図屋たちが相手に一杯食わせる反撃の手段が、地下資源を見つけてその「宝の地図」を作ることだというのは見事なカウンターパンチだったと思うし、だからやっぱりまともに地下調査やっときゃいいじゃないですかよの思いも強まる。宇宙開発にも必要だろ、レアアース。
そんな感じで若干引っかかりはあったが総じては面白かった。しかし地図製作会社という設定というか、肩書きは、もっと他にもいろいろ使えそうだなと思う。今回はSFだったが、作中じゃ少し前に日本全国の地図を完成させたというし、全国各地で起こった様々な事件を様々なジャンルで描けたりするんじゃないだろうか。勝手な妄想だが。ミステリーなら犯人の動機や逃走経路を犯行現場の地図から推理してみたり、ホラーなら地方の田舎集落に計測に訪れた社員たちが怪異現象に巻き込まれるとか、再びSFでもタイムスリップとか、異世界転生もあるいは行けるかもしれん。かように、地図とは道なき道の道標、未だ見ぬ夢の案内人となり得るものであった。

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