規格と遊び方の関係(日本編)

それでは今回は、最後の「日本編」をお送りしていこうと思います。

この「日本編」は、先述の2回と比べて、私たちの主観が多く入る回となりますので、その点をご承知おきください。


日本の鉄道模型市場、情勢は、恐らく読者の皆さんもよくご存じのことでしょう。

ですので、この投稿では「何故、世界基準のHOゲージではなく、Nゲージが主流になったか」を副題として進めていこうと思います。

まず、日本のHOの「規格」、と言うよりも「基本概念」についてです。

第二次世界大戦後、日本はGHQの占領下に入り、1955年のサンフランシスコ講和条約によって独立を果たすまで、所謂「アメリカの監視下」に置かれます。

当時、将校達の中にも鉄道模型が趣味という方も、それなりいらっしゃったのでしょう。国内のメーカー達がGHQ、更には国外輸出向けにアメリカ型を作り始めました。
そこには天賞堂、カツミ、クマタ貿易と言った今や日本の鉄道模型の老舗と呼ばれるメーカーや、中村精密、トビー、フジヤマなどの今や伝説となったメーカーが名を連ねていました。

ここで察しのいい方ならお気づきかもしれませんが、日本のHOはアメリカ型を作る際に培ってきた技術の上に成り立っています。
日本型の多くがカーブの「最小通過半径=550mm」を基準にしていることが、何よりの証拠です。

そして日本が国際社会に復帰、高度経済成長期を迎える中、次第に国内型の生産も始まり、「鉄道模型=HOゲージ」の時代が暫く続きます。

大きな転機が訪れたのは、1980年代初頭に起こったブルトレブームからと言われています。
ここからは、父と親しかった大手鉄道模型メーカーの社員の方から伺ったお話です。

ブルトレブームの主な年齢層はその時、小学生から中学生くらいの子供達でした。
実車の写真集やグッズが次々と登場してくる中、鉄道模型にも勿論需要が高まっていきます。
しかし、当時市場で出回っていたHOゲージは真鍮製の模型で、現在の貨幣価値に直すと1両20,000円くらいでしょうか。
そんな模型を子供達が自身の小遣いで真鍮のHOゲージを買える訳がありません。

そこで子供達が目を付けたのが、Nゲージです。

当時のNゲージのコンセプトは「子供たちの毎月の小遣いで1両買える模型」でしたので、ブームの年齢層と上手くマッチしたこともあり、爆発的に売り上げを伸ばしていきます。

そしてメーカーは、その波に乗って車両や情景部品のラインナップを更に広げていきました。

そのような環境になったことから、彼らが大人になった後も、わざわざレール幅の違うHOを買いなおすよりも、そのままNゲージを買い続けるインセンティブのほうが強くなった訳です。

かなり搔い摘んではいますが、メーカー側から見た日本の鉄道模型の主流ががNゲージになった大きな理由としては、上記の要因が大きいそうです。

さて、ここからは、私たち個人の見解を綴っていこうと思います。

上記のメーカー側から見た話を聞いた私たちはこう疑問に思いました。

主流のゲージが「NからHOに戻らなかった」理由もあるんではないか、と。

ここで、先述の2回の投稿が絡んできます。

鉄道模型のレールを敷く最小の単位は4×8ftべニア板とお話ししました。
ここで日本のNゲージカルチャーに慣れ親しんだ方はこう思うでしょう。

「HOでそのスペースだと、フル編成繋げられなくない?」

ユーザー側の心理として一番大きな理由としては、これだと私たちは思いました。

あちらこちらに話が飛んでしまい、申し訳ございませんが、ここで先代が見てきた鉄道模型市場の変遷もお話しします。

Nゲージにおける「フル編成を揃える文化」は、2002年にマイクロエースから発売された215系のセットから、急激に広まっていったそうです。

この「特定編成を実物と同じように車番まで同じフル編成で揃える」と言う戦略はモデラーの所有欲に上手く答え、以降、各メーカーもフル編成を基準とした商品ラインナップへ切り替えていきます。

Nゲージですと、在来線の車両は1両当たり約12.5cmとなるので、仮に東海道線の東京口普通電車のフル編成15両を繋げるとなると、全長は187.5cmになります。1両当たり約25cmになるHOであれば同じ両数をつないだ場合、3m75cmになることを考えると、繋げ方をフル編成を基準とすれば、Nのほうが圧倒的に小スペースで済むし、何より縦に2畳あれば、十分に自宅でも楽しめるわけです。

こういったフル編成のカルチャーについて、「遊ぶ為のスペース」と言った物理的な障害が要因にあることも勿論ありますが、何よりNゲージが普及していく中で、「鉄道模型=おもちゃ」であると言う概念から、鉄道模型に対する別の日本独自の見方が生まれてきたように思えます。

ヨーロッパ、アメリカ型のカタログを見てみると、車両のラインナップとしては全種類発売されていますが、編成例等を見ると、5~7両程度の編成を組んでいることがほとんどです。
近年、ヨーロッパ型ではACME、LS Models、Models Worldなど新しいブランドでは、フル編成を基準としたセット内容になっていることが多いので、ある意味日本型の感覚に近くなってきてはいるようですが、鉄道模型先進国では依然として「鉄道模型=おもちゃ」である前提は、メルクリン、ロコ、ホーンビーなど老舗メーカーの製品には存在しているように思えます。

ここまで、私たち個人の見解を述べてきましたが、何もNゲージのフル編成カルチャーや、日本の鉄道模型文化を否定するつもりは毛頭ありません。
むしろ、空撮しているみたいに眺めたい場合、Nゲージが一番適しているサイズ感であると思います。

ですがここで読者の皆さんに忘れて欲しくないことは、「あくまでグローバルスタンダードはHOである」こと、そして何より日本型が一大勢力になる為にはHOで勝負していかなければいけない、と言うことです。

私たちは、この先より日本型が活気づいていく為には「世界展開」が避けて通れない道の一つであることを輸出業を始めて痛感しました。

故に私たち小売店も含め、端くれながらも業界人として「世界の中の日本型」を意識し続けながら、新たな製品、売り方を模索していきたいと思っています。


今回の投稿はここで終わりです。

次からは、不定期ながら「世界の中の日本型」についてお話ししていければいいなと思っております。

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