燃えるような夕焼け

新宿方丈記・2 「シンプル」

この街に来てから、目的も無く、よく歩くようになった。今までだってかなり歩く方ではあったと思うが、行き先も決めないでブラブラ散歩、というのはそんなになかった。逆に「今日は目的の無い散歩をするぞ」という目的を掲げないと出来なかった気がする。

それが最近では、歩いていて「こっちの道行ったことがないから行ってみよう」「面白そうだからあっち曲がってみよう」みたいなことが多くなった。思い当たる理由は二つばかしある。一つは前回も書いたようにごくごく普通の住宅街で、いい意味で、目指して行くような目的地があまりないこと。もう一つは、それゆえに情報に振り回されなくなったことである。所謂サブカルタウンには、街の記号の様に立ち寄りスポットの情報が存在する。買い物ついでにあそこで古着見て、帰りにはあの古本屋と、せっかくだからレコード屋も覗いとく?ああそういえばetcetc…。まあ、そういうものが大好きな人間がそういう街に住んでいるのだから、仕方がないといえば仕方がない。けれど離れてみてそれが、いかに受け身の状態であったかに気付いたのだ。情報に埋もれ過ぎて、自分で考えたり選択することをないがしろにしていたのではないか。己のアンテナ、錆びついて鈍っていないか?ということに。

日常がシンプルになった分、今までより「考えて」行動する様になった。買い物ひとつでも、閉店時間やら何やら、気にかけなくてはならない。ちょっとマニアックな本を買いたければ紀伊國屋まで行かなくては無理だし、最寄りの郵便局のATMは土曜はさっさと閉まってしまうぞ、という具合だ。でも多少不便でも、自分にはそれが良かったのだと思う。色々と自分のことに集中できる様になった。格好良くいえば、自分と対面して、自分を再確認できたというのか。それに気付いた時、この街の暮らしが俄然面白くなり始めたのだった。

そして「本当に」目的の無いブラブラ散歩も、今面白くて仕方がない。


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