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新宿方丈記・11「スパイシー・キッチン」

ふと思い立って、キッチンの整理をした。もらったり、後先考えずに買い込んだりして、知らず知らず増えてしまった食器を片付けるべく、戸棚の中の物を掻き出す。おそらくもう使わないもの、それでも残しておくもの、普段使うもの…。キッチン周りのものは用途が明確だからか、30分ほどですっきり片付いた。ついでにレンジ脇のスパイスラックにも手を出す。うっかり賞味期限の切れたスパイスたち。以前、スパイスミルクティーに使っていたものたちだ。一時期ハマって、毎日のように作ったなあ。冬の日曜の朝や夜更かしする日、ミルクで煮出した紅茶にシナモンスティック、カルダモン、クローブ、それからチプトリーの生姜のジャムも入れて、体の芯からあたたまる、カップ一杯分の小さな温もりがやっと出来上がる。でもそこにたどり着くまでには、専用のミルクパンが吹きこぼれないように、一瞬たりとも目が離せないのだ。鍋を洗うのも大変だし、色々と面倒なのに、本当によく作ってた。面倒よりも、温もりが大事だったのだ、あの頃は。

古くなったスパイスの瓶を開けて、ゴミ袋に捨てていく。ほどなくスパイスラックもすっきりした。塩、胡椒、砂糖、蜂蜜。そんなシンプルなラインナップになった。そしていま、清々しくなったキッチンに、スパイスの香りが満ちている。シナモン、クローブ、カルダモン…。程よく刺激のある甘い香りが、早春の冷たい空気と混ざり合って、花の如く匂い立っている。春の空気は凛々しい。冬の衣を脱ぎ捨てて、新しく歩き出そうという、そんな気持ちにさせてくれる。冬枯れしていたベランダの紫陽花から、いつの間にか鮮やかな緑の芽が伸びている。歩き出せ。疲れたらまた、スパイスミルクティー入れてあげるよ、自分に。

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